腱板断裂・棘上筋断裂

回旋筋腱板(Rotator cuff)は棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋から構成され、肩の動きに寄与するだけでなく、肩甲上腕関節の動的安定化をもたらします。

回旋筋腱板の異常所見は非常に多く、20歳以下の患者では9.7%、80歳以上の患者では62%(268人中166人)となってします。しかし半数以上は無症状であり、腱板の変性がヒトの正常な加齢の一般的な側面と考えられるほど高齢者の罹患率が高いようです。
そのため異常所見が新しい場合や症状の原因である場合の判断が困難となります[2][3]。
<年齢層別の症状の有無に関わらず回旋筋腱板異常所見が見られる割合>

その中で棘上筋は特に異常が見られやすい部位であり、棘上筋の断裂も含まれます。

棘上筋の基礎解剖学

棘上筋は、回旋筋腱板(rotator cuff)を構成する4つの筋(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋)の 1 つです。

起始:肩甲骨の棘上窩(Supraspinous fossa)
停止:上腕骨の大結節(Greater tubercle)
支配神経:肩甲上神経(Suprascapular nerve)); C5,6
作用:上腕骨の外転、関節窩での上腕骨頭の安定化
血液供給:肩甲上動脈(Suprascapular Artery)

棘上筋断裂の検査法

Liuら(2016)は新たに棘上筋断裂の検査法を開発しました。[1]

被験者:200名、 平均年齢46.8歳、男性119名、女性81名
包含基準:肩の痛みまたは筋力低下または脱臼に関連する診断のために関節鏡検査を受ける予定の患者
除外基準肩の手術、上肢骨折、両側肩疾患の病歴がある
参照基準:関節鏡検査で1 cm以上の棘上筋断裂が認められる

ハグアップテスト(Hug-up Test)

<検査の手順>
1. 患側の手のひらを反対側の肩に置き、肘を体の前方に向けます。
2. 検者は、患者に今からかける力に抵抗するよう求めながら、肘に対して下向きの力を加えます。
<陽性所見>
対側と比較して抵抗する力が(正確には20%以上)弱ければ陽性となります。痛みのみの場合は陰性と判断されます。
<ハグアップテスト>

ハグアップテストはYocum's testと肢位が似ていますが、Yocum's testでは能動的に肘を挙上(肩関節屈曲)するため異なる検査法です。

エンプティカンテスト(Empty can test)

<検査の手順>
1. 患者さんは肩甲平面上で90度まで挙上し、拇指が床を向くように上肢を内旋します。
2. 検者は手首に下向きの力を加え患者はそれに抵抗します。
<陽性所見>
陽性の基準には痛み・筋力低下・痛み+筋力低下のいずれかが用いられます。

フルカンテスト(Full can test)

<検査の手順>
1. 患者さんは肩甲平面上で90度まで挙上し拇指は天井を向くようにします2. 検者は手首に下向きの力を加え患者はそれに抵抗します。
<陽性所見>
陽性の基準には痛み・筋力低下・痛み+筋力低下のいずれかが用いられます。

ニアインピンジメントテスト/ Neer's Impingement Test

<検査の手順>
1. 患者さんの上腕を掴み、肩関節内旋位で受動的かつ強制的に完全に挙上させます。
この検査は大結節が肩峰の前内側縁に突き当たることを想定しています。
<陽性所見>
痛みが生じたら陽性とみなされます。

ホーキンスケネディテスト/Hawkins-Kennedy test

<検査の手順>
1. 肘を90°屈曲し、肩甲骨を固定した状態で、上腕を90°屈曲させます。
2. 検者が上腕骨を内旋させる。
この検査は棘上筋腱が烏口肩峰靭帯と烏口突起の前面
<陽性所見>
内旋時に痛みが生じたら陽性とみなされます。

ハグアップテストを含む棘上筋断裂の検査法の感度・特異度

5つの検査法で最も感度が高い、及び陰性尤度比が低い検査法はハグアップテストでした。
特異度と陽性尤度比が最も高いのはニアインピンジメントテストでした。

感度 特異度 陽性尤度比 陰性尤度比
ハグアップテスト 94.1% 76.6% 4.02 0.08
エンプティカンテスト 84.3% 74.5% 3.30 0.21
フルカンテスト 78.4% 80.9% 4.09 0.27
ニアインピンジメントテスト 62.7% 89.4% 5.89 0.42
ホーキンスケネディテスト 35.9% 87.2% 2.81 0.73

臨床的意義

ハグアップテストは感度が高く、陰性尤度比が低いためこの検査が陰性の時に棘上筋断裂を除外かどうかの判断に役立ちます。
この報告は関節鏡検査を受ける予定の患者さんに対して行われていたため全体的に症状は強い集団に行われた可能性があります。また検査法の初回の研究は感度特異度が高く報告される傾向があるため今後の報告も参考にする方が無難です。

 

参考文献
[1]Liu, Y. L., Ao, Y. F., Yan, H., & Cui, G. Q. (2016). The Hug-up Test: A New, Sensitive Diagnostic Test for Supraspinatus Tears. Chinese medical journal, 129(2), 147–153. https://doi.org/10.4103/0366-6999.173461
[2]Teunis, T., Lubberts, B., Reilly, B. T., & Ring, D. (2014). A systematic review and pooled analysis of the prevalence of rotator cuff disease with increasing age. Journal of shoulder and elbow surgery, 23(12), 1913–1921. https://doi.org/10.1016/j.jse.2014.08.001
[3]Minagawa, H., Yamamoto, N., Abe, H., Fukuda, M., Seki, N., Kikuchi, K., Kijima, H., & Itoi, E. (2013). Prevalence of symptomatic and asymptomatic rotator cuff tears in the general population: From mass-screening in one village. Journal of orthopaedics, 10(1), 8–12. https://doi.org/10.1016/j.jor.2013.01.008

記事情報

  • 公開日:2023/09/28
    参考文献を除く本文:1949文字
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  • 最終更新日:2023/09/28
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