参考可動域は必ずしも平均可動域を表しているわけではなく、人種・性別・年齢等による個人差も大きく、肢位や能動か受動か、健常者か疾患を有するかなど様々な条件で変化します。
そのため自身の見ている患者さんがどのような条件かで参照する基準が変わるのが理想的です。
ここでは膝関節と股関節の能動的可動域(active ROM)での年齢別平均可動域を見ていきます。
本邦における膝関節と股関節の参考可動域
日本整形外科学会、日本リハビリテーション医学会、日本足の外科学会による2022年4月に改訂された「関節可動域表示ならびに測定法」では能動的な動作で仰臥位または伏臥位で股関節と膝関節の可動域検査を行います。
「関節可動域表示ならびに測定法」に掲載されている参考可動域は以下の通りです[2]。
動作 | 参考可動域 |
膝関節屈曲 | 0-130° |
股関節屈曲 | 0-125° |
股関節伸展 | 0-15° |
股関節外転 | 0-45° |
股関節内旋 | 0-45° |
股関節外旋 | 0-45° |
膝関節と股関節の年齢別平均可動域
Roachら(1991)は1,892人の黒人と白人の両方で股関節と膝関節の可動域(AROM)のゴニオメーター測定における平均を調査しました。
股関節と膝関節可動域の年齢の平均可動域
動作 | 全ての年齢 (n=1683) |
25-39歳 (n=433) |
40-59歳 (n=727) |
60-74歳 (n=523) |
膝関節屈曲 | 132° | 134° | 132° | 131° |
股関節屈曲 | 121° | 122° | 120° | 118° |
股関節伸展 | 19° | 22° | 18° | 17° |
股関節外転 | 42° | 44° | 42° | 39° |
股関節内旋 | 32° | 33° | 31° | 30° |
股関節外旋 | 32° | 34° | 32° | 29° |
彼らは10%未満に相当するaROM の違いは、おそらく臨床的にはほとんど重要ではないと考えました。
すべての動作の平均aROM 値は、最年少の年齢グループよりも最年長のグループの方が低いようですが、伸展を除いて違いは非常に小さいため、おそらく臨床的重要性は限られています。
その上で股関節の伸展に関してのみ、最年少と最年長の年齢グループ間の差異は、 15%を常に超えていました(太字)。
この報告と本邦の「関節可動域表示ならびに測定法」を比較すると以下のようになります。
動作 | 全ての年齢 (n=1683) |
本邦の参考可動域 | 差 |
膝関節屈曲 | 132° | 0-130° | -2° |
股関節屈曲 | 121° | 0-125° | +4° |
股関節伸展 | 19° | 0-15° | -4° |
股関節外転 | 42° | 0-45° | +3° |
股関節内旋 | 32° | 0-45° | +13° |
股関節外旋 | 32° | 0-45° | +13° |
股関節内旋と外旋に10°以上の差が見られましたが、Roachらの方法では股関節の内旋と外旋の両方を、膝を90度屈曲した座位で測定しているため、肢位の違いが平均可動域に影響した可能性があります。
臨床的意義
本邦の「関節可動域表示ならびに測定法」では股関節の内旋外旋を仰臥位で行うように指示されており、参考可動域は45°です。
しかし座位で股関節の内旋外旋検査をしたRoachらの報告では平均可動域が32°と13°の差がありました。
臨床では医療者の慣れや好み、患者さんの状況に合わせて可動域検査の肢位を変える場合がありますが、股関節内旋外旋に関して座位を利用すると参考可動域の45°は参照すべき数値ではないかもしれません。
Roachらの研究は白人と黒人を対象に行なっているため人種差もあることを念頭においた上で、他に参照する情報がない場合、座位で股関節の内旋外旋active ROMを測る際に32°を参考にする方が適切かもしれません。
股関節伸展の平均可動域19°と本邦の参考可動域15°の差は4°と小さいですが、25-39歳(22°)と60-74歳(17°)で平均可動域の差が5°と他の部位に比べて年齢による差が大きいようです。
もし25-39歳(22°)に可動域検査を行う場合、参考可動域15°で考えると可動域を過大評価してしまう可能性があります。ちなみに股関節伸展の評価方法に大きな違いはありませんでした。
本邦の「関節可動域表示ならびに測定法」には「関節可動域参考値一覧表」[3]が付随してあり、そこの股関節伸展可動域の数値を見ると15-30°の範囲が記されています。そのためRoachらの報告の参照に限らず股関節伸展の参照可動域の15°は小さすぎるようです。
Roachらの研究は75歳以上が含まれませんでした。
75歳以上では加齢により急激にROMが落ちる可能性があるため、この研究から得られた加齢によってあまり股関節の可動域は伸展を除き減少しないというのが適応されるのは74歳までです。
とはいえ少なくとも74歳までは、関節可動性の大幅な低下は加齢によるものではなく、したがって若年層と同様に解釈した方が良さそうです。
[2]https://www.jarm.or.jp/member/kadou03.html
[3]https://www.jarm.or.jp/member/kadou04.html
記事情報
- 公開日:2023/09/14
参考文献を除く本文:1933文字
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画像:0枚 - 最終更新日:2023/09/14
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