骨盤の傾きと筋の関係に関する仮説

骨盤の角度を変えるためのアプローチとしてハムストリングスのストレッチや筋トレは一般的に用いられる手段です。

このアプローチの根底にある仮説は骨盤の傾きは筋の張力のバランスによって決まるというものです。
この仮説上では腹直筋や大殿筋、ハムストリングスなどの張力が高くなる(緊張や短縮と表現される)ことで骨盤を後傾させ、大腰筋や大腿四頭筋、多裂筋などの張力が高くなると骨盤が前傾すると考えます。
また反対に腹直筋や大殿筋、ハムストリングスなどが弱くなったり伸張すると骨盤を前傾し、大腰筋や大腿四頭筋、多裂筋などが弱くなったり伸張すると骨盤を後傾すると考えます。

しかしこのような仮説はあくまで教科書上の筋の位置に基づいた案であり、実際にこれらの筋が骨盤の角度を変えたり、これらの筋に介入することで骨盤の角度が変えられることが明らかとは言えません。

ストレッチとストレングスエクササイズは骨盤の傾きを変化させるか?

Shamsiらは慢性非特異的腰痛患者における短縮したハムストリングを改善するためのストレッチと伸張するように行うストレングストレーニングが骨盤の傾きにどのように影響するかを調査しました[1]。

被験者:ストレッチ群15名、ストレングストレーニング群15名、対照群15名、男性31名、女性14名、平均年齢38.80
包含基準:慢性(3ヶ月以上)腰痛、VAS=3~6、SLRでハムストリング短縮と判断された
除外基準:神経障害性疼痛、悪性腫瘍、炎症性疾患、重度の骨粗鬆症、関節炎および/または骨疾患などの下肢に何らかの病状または異常がある場合
計測:骨盤の傾きは傾斜計を仙骨上に設置することで計測された。passive SLR スコアは股関節0°屈曲位の仰臥位で行われた。

全群は週3回、12回温熱療法やTENS、腰痛体操など共通の介入を受け、介入群はそれぞれストレッチかストレングスエクササイズが追加されました。ストレッチとストレングスエクササイズの強度や回数は明記されていませんでした。

結果として12セッションの治療後、3つのグループすべてでSLRテストのスコアのみが改善しました。 しかし 介入後の骨盤角度は変化しませんでした。

<骨盤の傾きの変化>

骨盤の傾き ストレッチ ストレングスエクササイズ 対照
Before 71.73(5.43) 70.88(6.59) 70.78(4.56)
After 71.67(5.85) 71.54(6.87) 69.77(5.5)

<SLRの変化>

SLR test ストレッチ ストレングスエクササイズ 対照
Before 73.76(8.25) 74.76(8.25) 69.28(13.77)
After 80.87(9.71) 80.86(9.72) 79.24(10.09)

臨床的意義

ハムストリングは骨盤の坐骨結節に由来するため、柔軟性が低いと骨盤の前傾が制限され、前屈も制限される可能性があります。一方で坐骨結節に付着しているため、長さの変化が骨盤の傾きに影響を与える可能性があるという関係を疑う人もいます。

この研究ではストレッチやストレングスエクササイズは骨盤の傾きを変化させることができませんでした。
ただし具体的にどれくらいの強度で行われたか明らかでないためこの結果は制限があります。

参考文献
[1]Shamsi, M., Shahsavari, S., Safari, A., & Mirzaei, M. (2020). A randomized clinical trial for the effect of static stretching and strengthening exercise on pelvic tilt angle in LBP patients. Journal of bodywork and movement therapies, 24(3), 15–20. https://doi.org/10.1016/j.jbmt.2020.02.001

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