ハムストリング損傷(HSI:Hamstring strain injury)は最も一般的なスポーツ損傷の1つであり、急性外傷性損傷です。

【用語解説】
・スポーツ障害(Sports injury)
スポーツ障害は「競技やトレーニングの欠席という結果にかかわらず、医療的治療を受ける新規または再発の傷害または疾病」と定義されています。このような定義を用いることで、主に中等度および重度の急性傷害が記録されることになります[a]。
・急性外傷性損傷(Acute traumatic injury)
それまで健康であった組織に単一の大きな外傷をもたらす単一の事象によって引き起こされる損傷
・肉離れ(Muscle strain)
肉離れは、裂傷や挫傷などの直接接触による損傷を除き、臨床的に特定できる筋群の損傷。

ハムストリング損傷や肉離れにおいて過去の同様の損傷の経験は特に重要な情報です。

179のリスク因子を調査しましたメタ分析によると、高齢と過去の怪我がハムストリング損傷の最も強いリスク因子でした。 ハムストリング損傷の病歴があるアスリートは、そうでないアスリートに比べてハムストリング損傷を発症する可能性が2.7倍高く、その中でも特に前回のハムストリング損傷が同じシーズンに発生した場合、約5倍そのリスクはさらに高くなります[2]。

同じシーズンの他にもう一つハムストリング損傷をしやすい時期があり、それはスポーツの復帰直後です。

スポーツの復帰直後15週間はリスクが高い

AFL(Australian Football League)の傷害調査システム(Injury surveillance system)の報告ではハムストリングの肉離れの12.6%が、プレー復帰後の最初の1週間に許容できないほどの再発することを挙げています[1]。また2週目は8.1%、22週間のシーズン全体での再損傷は累積で30.6%でした。

損傷の再発リスクの週ごとの割合 (%)

初期損傷からの復帰後 ハム肉離れ
(n=858)
大腿四頭筋肉離れ
(n=251)
ふくらはぎの肉離れ(n=217) 大腿部の挫傷
(n=123)
1週間 12.6% 9.0% 7.8% 5.6%
2週間 8.1% 4.7% 5.7% 1.2%
3週間 6.8% 3.3% 3.3% 1.3%
4-5週間 4.7% 3.7% 0.0% 0.0%
6-8週間 3.1% 3.3% 2.8% 1.3%
9-14週間 2.7% 0.5% 1.1% 1.6%
15-22週間 1.4% 2.2% 2.1% 0.0%

 

Orchardら(2020)の272,759 人の選手の試合で発生した 3,647 件の肉離れに関するデータを元にした報告でもすべての傷害(ハム、大腿四頭筋、ふくらはぎ、鼠径部)において、最も強いリスク因子は同じ傷害の最近の病歴でした。

最初の1週間の再発の絶対リスクは、ハムストリングで9%、鼠径部で6%、大腿四頭筋で5%、ふくらはぎで2% でした。
週ごとの再発率は、毎週ゆっくりと低下する傾向がありました。

この研究ではサッカーにおいて2 か月以内の怪我の再発は「早期再発(Early recurrences)」と見なされるため、最初の損傷から 8 週間をカットオフ値にしました。
同じ損傷の最近(8 週間)の病歴に対するオッズ比(OR:Odds Ratio)は、ハムストリング OR:13.10、ふくらはぎ OR:13.30、大腿四頭筋OR:25.19、鼠径部OR:20.62で、最近ではない同じ損傷の過去の病歴に対するORは、ハムストリング OR:3.49、ふくらはぎ OR:4.38、大腿四頭筋 OR:5.16、鼠径部 OR:3.46です。OR が高いのは、これまでその種の筋損傷を経験したことがないプレーヤーの絶対リスクが低いためであると考えられます。
20週までの再発のリスクを見ると、肉離れの再発リスクが増加する期間が長く、復帰してから少なくとも15週間持続するようです。

臨床的意義

復帰後再発のリスクが高いのは直感的にも経験的にも理解できます。
ではいつまで特に気をつければ良いのか?という問いに対する1つの答えは15週までです。
肉離れの病歴がある以上その選手は他の選手に対して肉離れのリスクは常に高いことにはなりますが、最初の1週間は特に厳重に注意し、15週間まで強く注意を向け、それ以降は他の肉離れの既往がある選手と同レベルで注意を向けるといったように段階的に変化させていくことで、注意のマンネリ化を避けることができるかも知れません。

 

参考文献
[1]Orchard, J., & Best, T. M. (2002). The management of muscle strain injuries: an early return versus the risk of recurrence. Clinical journal of sport medicine : official journal of the Canadian Academy of Sport Medicine12(1), 3–5. https://doi.org/10.1097/00042752-200201000-00004
[2]Green, B., Bourne, M. N., van Dyk, N., & Pizzari, T. (2020). Recalibrating the risk of hamstring strain injury (HSI): A 2020 systematic review and meta-analysis of risk factors for index and recurrent hamstring strain injury in sport. British journal of sports medicine, 54(18), 1081–1088. https://doi.org/10.1136/bjsports-2019-100983
[3]Orchard, J. W., Chaker Jomaa, M., Orchard, J. J., Rae, K., Hoffman, D. T., Reddin, T., & Driscoll, T. (2020). Fifteen-week window for recurrent muscle strains in football: a prospective cohort of 3600 muscle strains over 23 years in professional Australian rules football. British journal of sports medicine54(18), 1103–1107. https://doi.org/10.1136/bjsports-2019-100755
【用語解説の参考文献】
・スポーツ障害(Sports injury)
[a]Hainline, B., Derman, W., Vernec, A., Budgett, R., Deie, M., Dvořák, J., Harle, C., Herring, S. A., McNamee, M., Meeuwisse, W., Lorimer Moseley, G., Omololu, B., Orchard, J., Pipe, A., Pluim, B. M., Ræder, J., Siebert, C., Stewart, M., Stuart, M., Turner, J. A., … Engebretsen, L. (2017). International Olympic Committee consensus statement on pain management in elite athletes. British journal of sports medicine, 51(17), 1245–1258. https://doi.org/10.1136/bjsports-2017-097884 ・Chronic degenerative condition

 

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