よく姿勢介入の際に用いられる仮説のハムストリングスの短縮は骨盤を後傾させるというのは正しいのでしょうか?

ハムストリングの伸張性と骨盤の角度の相関関係

Muyorらはサイクリストのハムストリングスの筋肉の伸展性と骨盤および脊椎の姿勢との関係を調査しました[1]。

被験者:96人のサイクリスト、平均30.36歳
包含基準:1日2~4時間の自転車トレーニング、2)週3~6日のトレーニング、3)5年以上のトレーニング経験。
除外基準:試験前3ヵ月間に脊椎またはハムストリングスの痛みの既往がある、脊椎またはハムストリングスの手術歴がある、医学的に脊椎障害と診断されている

ハムストリングの伸張性は、立位での脊椎の湾曲や骨盤の傾きとは関連していませんでした。

<立位でのSLRと脊柱と骨盤の平均(SD)角度>

立位 PSLR < 80° PSLR = 80°-90° PSLR > 90°
胸椎の角度 46.86(7.59) 48.97(10.79) 45.71(7.96)
腰椎の角度 −25.10(5.28) −27.34(6.88) −25.29(6.94)
骨盤の角度 11.07(5.61) 12.51(4.25) 11.90(5.23)

しかしシットアンドリーチテストにおける胸椎角度(p<0.01)と骨盤の傾き(p<0.001)はハムストリングの伸張性と関連していました。

<シットアンドリーチテストでのSLRと脊柱と骨盤の平均(SD)角度>

シットアンドリーチテスト PSLR < 80° PSLR = 80°-90° PSLR > 90°
胸椎の角度 64.73(7.18) 61.86(10.38) 52.97(12.27)
腰椎の角度 29.80(7.24) 30.40(8.39) 33.10(9.11)
骨盤の角度 −19.18(7.78) −8.68(9.86) −2.13(8.27)

Norrisらはムストリング筋の伸張性と立位前屈時の骨盤の角度の関連を調査しました[2]。被験者は膝や背中の痛みの病歴がない21人の大学スポーツ研究の学生(女性12人、男性9人)でした。

ハムストリング筋の伸張性は、AKE(active knee extension)で測定され、結果としてハムストリングの伸張性と骨盤の傾きとの間に相関は見られませんでした(r = 0.045)

臨床的意義

これらの結果から立位においてハムストリングスの伸張性(SLR)は骨盤の角度に影響を与えないことが示され、しかし動作時には骨盤の傾きを制限する報告としない報告があることがわかりました。

シットアンドリーチテスト時の骨盤の角度とハムストリングスの伸張性の関係を示した研究ではSLRが用いられ、立位前屈時の骨盤の角度とハムストリングスの伸張性の関係が見つからなかった研究ではAKEが検査として用いられたことはこの結果の矛盾を説明するかもしれません。

ハムストリングスは坐骨結節に付着するため、骨盤の前傾が減少させる可能性があり、坐骨結節は大腿骨頭のわずかに後方にあるため骨盤を後傾させない可能性もあります。

この2つの研究はこの仮説を支持しています。
また立位におけるハムストリングスの伸張性と骨盤の角度が相関しないことは、Shamsiらの報告したハムストリングスのストレッチやストレングスエクササイズが骨盤の角度を変更しなかったことを説明します[3]。

 

参考文献
[1]Muyor, J. M., Alacid, F., & López-Miñarro, P. A. (2011). Influence of hamstring muscles extensibility on spinal curvatures and pelvic tilt in highly trained cyclists. Journal of human kinetics29, 15–23. https://doi.org/10.2478/v10078-011-0035-8
[2]Norris, Christopher & Matthews, Martyn. (2006). Correlation between hamstring muscle length and pelvic tilt range during forward bending in healthy individuals: An initial evaluation. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 10. 10.1016/j.jbmt.2005.06.001.
[3]Shamsi, M., Shahsavari, S., Safari, A., & Mirzaei, M. (2020). A randomized clinical trial for the effect of static stretching and strengthening exercise on pelvic tilt angle in LBP patients. Journal of bodywork and movement therapies, 24(3), 15–20. https://doi.org/10.1016/j.jbmt.2020.02.001

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