矢状面の変化である頭部が過度に前方移動した姿勢は専門的にはFHP(Forward head posture; 頭頸部前方位姿勢)と呼ばれ、水平面上の変化である肩峰が過度に前方移動した姿勢はRSP(Rounded shoulder posture)と呼ばれます。
また矢状面の変化として胸椎が屈曲すると円背姿勢(Kyphosis posture)と呼ばれます。
恐らく猫背はFHPまたは/かつ円背姿勢のことを指しており、巻き肩はRSPのことを指していると思われます。

FPS(猫背)のチェック方法
CVAは第7頸椎棘突起を通る水平線と外耳孔と第7頸椎棘突起を結ぶ線との間の角度として定義され、角度が53° 以下の場合はFHP とみなされます[1]。

猫背と僧帽筋の長さの関係を検証する
3Dモデルを使用して僧帽筋前縁にメジャーを沿わせることで長さの変化を測定しました。
ニュートラルはCVA=62°で測定し、FHPはCVA=48°で測定しました。
FPSはRSPとは異なり肩峰の移動は含まれないため鎖骨の位置は固定しました。



僧帽筋の長さは胸鎖乳突筋前縁の長さを21.0cmと定義して測定しました。
僧帽筋の後縁は鎖骨と第7頸椎の位置が固定されているため測定しませんでした。長さは0.5cm刻みで測定しました。
僧帽筋とは?
僧帽筋は、頭蓋骨・脊柱・肩甲骨・鎖骨と広く付着するため頸部や肩甲帯の多くの動作に関与しています。
また僧帽筋は上部繊維・中部繊維・下部繊維に分けられます。文献によって中部繊維がどの範囲を指すのか異なることがあります。
僧帽筋の前縁は胸鎖乳突筋と鎖骨とともに後頸三角を構成します。


名称 | 僧帽筋(そうぼうきん) ・上部繊維 ・中部繊維 ・下部繊維 |
英語表記 | Trapezius muscle ・Descending part(superior fibers) ・Transverse part(middle fibers) ・Ascending part(inferior fibers): |
略称 | TM/ Trap |
起始 | ・上部繊維:上項線(Superior nuchal line)の内側3分の1、外後頭隆起(External occipital protuberance)、項靱帯(Nuchal ligament) ・中部繊維:T1~T4の棘突起(Spinous process)、棘上靱帯(Supraspinous ligament) ・下部繊維:T4~T12の棘突起(Spinous process)、棘上靱帯(Supraspinous ligament) |
停止 | ・上部繊維:鎖骨(Clavicle)外側3分の1 ・中部繊維:肩峰(Acromion)、肩甲棘(Spine) ・下部繊維:肩甲棘内側 |
支配神経 | 脊髄副神経(Accessory nerve) |
神経根/分節 | N/A |
作用 | ・上部繊維 肩甲胸郭関節:肩甲骨挙上 頸椎:同側側屈、伸展、対側回旋 ・中部繊維 肩甲胸郭関節:肩甲骨内転 ・下部繊維: 肩甲胸郭関節:肩甲骨を下内側に引く |
血液供給 | 後頭動脈(Occipital artery)、頸横動脈(Transverse cervical artery)、肩甲背動脈(Dorsal scapular artery) |
猫背姿勢は僧帽筋短縮位
結果としてニュートラルからFHPに肢位を変えることで僧帽筋前縁の長さが2cm短くなりました。
ニュートラル(A) | FHP(B) | 差(B-A) | |
僧帽筋前縁 | 22.5 cm | 20.5 cm | -2cm |
そのためFHPは僧帽筋前縁を短縮させる肢位となります。
ただしここでのFHPはRSPを伴っていません。FHPを有する人はRSPも同時に有していることがありこの組み合わせの結果が僧帽筋短縮位になるかは今回の検証からは分かりません。
古典的な姿勢の分類である上位交差症候群はFHPを伴った姿勢ですが、上位交差症候群では僧帽筋は短縮位であると考えており今回の検証と一致しています。
しかし猫背姿勢やFHPは僧帽筋を過緊張させると主張されることがありますが短縮位で過緊張が生じるとされる理由は不明です。上位交差症候群では短縮位を長時間維持すると構造的に短縮すると考えますが、これが実際人体の僧帽筋で生じるかは疑問であり、また短縮と筋の緊張は異なる概念なのでこれは過緊張するの説明にはなりません。
記事情報
- 公開日:2023/10/03
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画像:7枚 - 最終更新日:2023/10/03
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