以前の3Dモデルを使った検証では、FHP(Forward head posture; 頭頸部前方位姿勢)は僧帽筋前縁の短縮位であり、RSP(Rounded shoulder posture)は僧帽筋前縁・後縁の伸張位でした。
そのためFHPとRSPの組み合わせは僧帽筋前縁の短縮と伸張の組み合わせであり、互いに相殺されることが予想されます。
FHP | ニュートラル(A) | FHP(B) | 差(B-A) |
僧帽筋前縁 | 22.5 cm | 20.5 cm | -2cm |
RSP | ニュートラル(A) | RSP(B) | 差(B-A) |
僧帽筋前縁 | 22.5 cm | 23.5 cm | 1.5 cm |
僧帽筋後縁 | 17.5 cm | 21.0 cm | 3.5 cm |
そこで今回はFHPとRSPの組み合わせが僧帽筋前縁の長さをどう変化するか検証してみます。
目次
猫背(FHP)と巻き肩(RSP)とは?
矢状面の変化である頭部が過度に前方移動した姿勢は専門的にはFHP(Forward head posture; 頭頸部前方位姿勢)と呼ばれ、水平面上の変化である肩峰が過度に前方移動した姿勢はRSP(Rounded shoulder posture)と呼ばれます。
また矢状面の変化として胸椎が屈曲すると円背姿勢(Kyphosis posture)と呼ばれます。
恐らく猫背はFHPまたは/かつ円背姿勢のことを指しており、巻き肩はRSPのことを指していると思われます。

猫背(FHP)と巻き肩(RSP)のチェック方法
FPSはCVA(craniovertebral angle)を測定することで評価されます。
CVAは第7頸椎棘突起を通る水平線と外耳孔と第7頸椎棘突起を結ぶ線との間の角度として定義され、角度が53° 以下の場合はFHP とみなされます[1]。
RSPはScapular indexを使って計測されます。
Scapular index={(烏口突起から胸骨上切痕の距離)/(肩峰角から胸椎の距離)}×100で求めることができます[2]。





僧帽筋とは?
僧帽筋は、頭蓋骨・脊柱・肩甲骨・鎖骨と広く付着するため頸部や肩甲帯の多くの動作に関与しています。
また僧帽筋は上部繊維・中部繊維・下部繊維に分けられます。文献によって中部繊維がどの範囲を指すのか異なることがあります。
僧帽筋の前縁は胸鎖乳突筋と鎖骨とともに後頸三角を構成します。


名称 | 僧帽筋(そうぼうきん) ・上部繊維 ・中部繊維 ・下部繊維 |
英語表記 | Trapezius muscle ・Descending part(superior fibers) ・Transverse part(middle fibers) ・Ascending part(inferior fibers): |
略称 | TM/ Trap |
起始 | ・上部繊維:上項線(Superior nuchal line)の内側3分の1、外後頭隆起(External occipital protuberance)、項靱帯(Nuchal ligament) ・中部繊維:T1~T4の棘突起(Spinous process)、棘上靱帯(Supraspinous ligament) ・下部繊維:T4~T12の棘突起(Spinous process)、棘上靱帯(Supraspinous ligament) |
停止 | ・上部繊維:鎖骨(Clavicle)外側3分の1 ・中部繊維:肩峰(Acromion)、肩甲棘(Spine) ・下部繊維:肩甲棘内側 |
支配神経 | 脊髄副神経(Accessory nerve) |
神経根/分節 | N/A |
作用 | ・上部繊維 肩甲胸郭関節:肩甲骨挙上 頸椎:同側側屈、伸展、対側回旋 ・中部繊維 肩甲胸郭関節:肩甲骨内転 ・下部繊維: 肩甲胸郭関節:肩甲骨を下内側に引く |
血液供給 | 後頭動脈(Occipital artery)、頸横動脈(Transverse cervical artery)、肩甲背動脈(Dorsal scapular artery) |
猫背(FHP)+巻き肩(RSP)と僧帽筋の長さの関係を検証する
ニュートラルはScapular index=76、CVA=62°で測定し、FHP+RSPはScapular index=67、CVA=48°で測定しました。
僧帽筋の長さは胸鎖乳突筋前縁の長さ21.0cmを基準とし、0.5cm刻みで測定しました。

猫背(FHP)+巻き肩(RSP)は僧帽筋上部繊維の長さを変えない
ニュートラルとFHP+RSPで僧帽筋上部繊維の長さの差は0.5cmしかありませんでした。
3Dモデルを使用した長さ測定の妥当性は不明ですが、経験的には0.5~1cmの差は測定誤差で生じうる範囲であり、またこのレベルの数値の大きさはCVAやScapular indexの少しの変化で変わると予想されるため、ニュートラルとFHP+RSPで僧帽筋前部繊維の長さに差があるとは言えません。
ニュートラル(A) | FHP+RSP(B) | 差(B-A) | |
僧帽筋前縁 | 22.5 cm | 23.0 cm | 0.5 cm |
古典的な姿勢の分類である上位交差症候群はFHPとRSPを伴った姿勢ですが、上位交差症候群では僧帽筋は短縮位であると考えています。しかし今回の検証ではFHPとRSPの組み合わせでは短縮位ではありませんでした。
今回僧帽筋後縁の長さは測定しませんでしたがこれはRSPと同様の結果になると考えられたからです。
そのためFHP+RSPは前縁の長さを変えませんが、後縁は伸張され、その間の組織は後縁に向かってグラデーションのように伸張度が変わると予想されます。
[2]korooshfard, Negar & Ramezanzade, Hesam & Arabnarmi, Bita. (2011). Relationship of self esteem with forward head posture and round shoulder. Procedia - Social and Behavioral Sciences. 15. 3698-3702. 10.1016/j.sbspro.2011.04.358.
記事情報
- 公開日:2023/10/22
参考文献を除く本文:2278文字
参考文献を含む本文:2703文字
画像:9枚 - 最終更新日:2023/10/22
更新情報無し
【注意事項】
本記事は一介の臨床家が趣味でまとめたものです。そのため専門的な文献に比べ、厳密さや正確性は不十分なものとなっています。引用文献を参照の元、最終的な情報の取り扱いは個人にお任せします。誤りや不適切な表現を見つけた際、誤字を修正した場合、追記した時には「記事情報」に記述します。