健常者であっても頸部の平均可動域の報告には大きなばらつきがあります[2][3]。

<Tousignant(2006)とMalmström(2003)と参考可動域の比較>

平均可動域
Tousignant(2006)(C)
平均可動域
Malmström(2003)(D)
参考可動域(E) 参考可動域との差
(C-E)
参考可動域との差
(D-E)
研究間の差
(D-C)
屈曲 47° 65° 60° -13° +5° +18°
伸展 50° 67° 60° -10° +7° +17°
右回旋 56° 76° 60° -4° +16° +20°
左回旋 56° 76° 60° -4° +17° +20°
右側屈 30° 41° 50° -20° -9° +11°
左側屈 33° 42° 50° -17° -8° +9°

このばらつきは年齢や研究間の細かな基準の違いで部分的に説明できるかも知れませんが、これだけ大きなばらつきが出る理由は他にもあるかも知れません。

もし年齢だけで測定結果にばらつきが生じるのあれば、同一の患者さんに2回可動域を行えば2回の可動域検査結果は近い数値になるはずです。基本的な測定の基準の違いだけで測定結果にばらつきが生じるのあれば、同じ基準を用いる検者が行う2度の検査で可動域検査結果は近い数値になるはずです。
このように2回以上の検査で安定して同じような結果が出る程度を信頼性といいます。

特に複数の検者によって測定されたデータの信頼性を検者間信頼性、1人の検者が測定を複数回繰り返したときの信頼性を検者内信頼性といい、検査において重要な指標の1つです。
検査を行う際には検査にどれだけ信頼性があるか知っておくと検査結果を誤解しにくくなります。

本邦における頸椎可動域検査法

頚椎の可動域検査の基準となる基本軸と移動軸は他の部位よりも正確に捉えるのが難しいです。
そのため頚椎の可動域検査を行う際は測定誤差が大きくなることが予想されます。測定誤差を小さくする1つの方法は同じ基準を使い訓練することなので統一された測定方法を用いることが大切です。

日本整形外科学会、日本リハビリテーション医学会、日本足の外科学会によって2022年4月に改訂された「関節可動域表示ならびに測定法」に掲載されている参考可動域は以下の通りです。

<頸椎屈曲>

参考可動域 基本軸 移動軸 測定肢位および注意点 参考図
0-60° 肩峰を通る床への垂直線 外耳孔と頸頂を結ぶ線 頭部体幹の側面で行う
原則として腰かけ座位と する

<頸椎伸展>

参考可動域 基本軸 移動軸 測定肢位および注意点 参考図
0-50° 肩峰を通る床への垂直線 外耳孔と頸頂を結ぶ線 頭部体幹の側面で行う
原則として腰かけ座位と する

<頸椎側屈>

参考可動域 基本軸 移動軸 測定肢位および注意点 参考図
0-50° 第7頚椎棘突起と第1仙椎の棘突起を結ぶ線 頭頂と第7頚椎棘突起を結ぶ線 体幹の背面で行う
腰かけ座位とする

<頸椎回旋>

参考可動域 基本軸 移動軸 測定肢位および注意点 参考図
0-60° 両側の肩峰を結ぶ線への垂直線 鼻梁と後頭結節を結ぶ線 腰かけ座位で行う

頸椎可動域検査の信頼性

Youdasらは21~84歳の頸椎の整形外科的障害を持つ患者さんを対象に頚椎の可動域と信頼性を調査しました[1]。

被験者:理学療法・リハビリテーション科に紹介された頸椎の整形外科的障害を持つ患者60名(女性39 名、男性21名)
包含基準:頸部aROMの評価が患者の日常的な理学療法評価の適切な要素である、患者の年齢が18 歳以上である
除外基準:痙性斜頸と診断された患者
肢位:座位
運動様式:能動的
測定器:ゴニオメーター、目測(visual estimation)

平均可動域

頸椎の整形外科的障害を持つ患者を対象にしているため平均可動域は低くなります。
屈曲・伸展・回旋の平均可動域はゴニオメーターと目測で近い数値でしたが、ゴニオメーターに比べて目測の側屈は高く評価されました。

<平均可動域と参考可動域の差>

ゴニオメーター平均(A) 目測平均(B) 参考可動域(C) 差(A-C) 差(B-C)
屈曲 40° 40° 60° -20° -20°
伸展 50° 52° 60° -10° -8°
右回旋 51° 53° 60° -9° -7°
左回旋 49° 54° 60° -11° -6°
右側屈 22° 28° 50° -28° -22°
左側屈 22° 28° 50° -28° -22°

可動域検査の信頼性

ゴニオメーターの検者内信頼性では左回旋を除いて全ての動作でICCが0.80を超えていました。
しかし検者間信頼性では全体的に検者内信頼性が低くなり、特に屈曲はICC=.57と低くなりました。

<ゴニオメーターの信頼性>

検者内信頼性(ICC) 検者間信頼性(ICC)
屈曲 .83 .57
伸展 .86 .79
右回旋 .90 .62
左回旋 .78 .54
右側屈 .85 .72
左側屈 .84 .79

目視では、検者間信頼性は全体的に中程度から低く、特に屈曲伸展はICC=.42と信頼できないようです。

<目測の信頼性>

検者間信頼性(ICC)
屈曲 .42
伸展 .42
右回旋 .82
左回旋 .69
右側屈 .70
左側屈 .63

そのため複数の検者が頸部の可動域検査を行う際に目測を用いるのは適切ではありません。

 

 

参考可動域
[1]Youdas, J. W., Carey, J. R., & Garrett, T. R. (1991). Reliability of measurements of cervical spine range of motion--comparison of three methods. Physical therapy, 71(2), 98–106. https://doi.org/10.1093/ptj/71.2.98
[2]Tousignant, M., Smeesters, C., Breton, A. M., Breton, E., & Corriveau, H. (2006). Criterion validity study of the cervical range of motion (CROM) device for rotational range of motion on healthy adults. The Journal of orthopaedic and sports physical therapy, 36(4), 242–248. https://doi.org/10.2519/jospt.2006.36.4.242
[3]Malmström, E. M., Karlberg, M., Melander, A., & Magnusson, M. (2003). Zebris versus Myrin: a comparative study between a three-dimensional ultrasound movement analysis and an inclinometer/compass method: intradevice reliability, concurrent validity, intertester comparison, intratester reliability, and intraindividual variability. Spine, 28(21), E433–E440. https://doi.org/10.1097/01.BRS.0000090840.45802.D4

記事情報

  • 公開日:2023/09/19
    参考文献を除く本文:2072文字
    参考文献を含む本文:2916文字
    画像:4枚
  • 最終更新日:2023/09/19
    更新情報無し

【注意事項】
本記事は一介の臨床家が趣味でまとめたものです。そのため専門的な文献に比べ、厳密さや正確性は不十分なものとなっています。引用文献を参照の元、最終的な情報の取り扱いは個人にお任せします。誤りや不適切な表現を見つけた際、誤字を修正した場合、追記した時には「記事情報」に記述します。

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