烏口上腕靱帯 (CHL) は、烏口突起の基部外側から、大結節と小結節に付着します。
新鮮組織検体で烏口上腕靱帯を切除すると1stポジションでの外旋角度が平均32°増加するため烏口上腕靱帯は肩関節の外旋制動因子であるとされています[5][6]。
そのため外旋制限がある際に、烏口上腕靱帯が介入のターゲットにされることがあります。

烏口上腕靱帯は内旋位では弛緩位であるため、内旋制動をするとはあまり考えられておらず、肩の内旋制動は後方関節包と関連していると考えられています。

しかし後方関節包とは別に外旋制動因子である烏口上腕靱帯が内旋も制動する可能性があります。

烏口上腕靱帯への介入は結滞動作を改善する

Leeら(2022)は烏口上腕靱帯と下方関節包に対するコルチコステロイド注射の効果を調査しました。

被験者:ペインクリニックを訪れた120名の拘縮肩患者
包含基準:来院時に2つ以上の面で 30°を超える他動運動の制限を伴う肩の痛み、経口鎮痛薬を服用しているにもかかわらず、VASスコアが5以上
除外基準:両側性拘縮肩、6か月以内に肩関節にコルチコステロイド注射を行ったことがある、肩関節脱臼または以前の肩手術の既往、変形性肩関節症、注射に対する禁忌、認知機能の低下。

患者はCHL+IGHC群とPGHR群に分けられ、CHL+IGHC群は烏口上腕靱帯と下方関節包に対して、PGHR群は上腕骨頭後面と関節唇の間に2週間間隔で3回の注射を打ちました。また全ての患者は自宅で運動プログラムを実行しました。

結果として2ヵ月後と4ヵ月後の追跡調査では、両群が痛みと外転、外旋、内旋(結滞動作)のROMが大幅に増加しましたが、 VASと内旋、外転、外旋はPGHR群よりもCHL+IGHC群で有意に減少しました。

<疼痛レベルの変化>

VAS 治療前 平均(SD) 2ヵ月後 平均(SD) 4ヵ月後 平均(SD)
CHL+IGHC群 6.5 ± 0.5 2.1 ± 0.8 1.4 ± 0.6
PGHR群 6.5 ± 0.5 3.9 ± 1.1 2.1 ± 1.1

<外転可動域の変化>

外転可動域(°) 治療前 平均(SD) 2ヵ月後 平均(SD) 4ヵ月後 平均(SD)
CHL+IGHC群 131.3 ± 16.4 162.4 ± 8.2 176.2 ± 5.6
PGHR群 132.1 ± 9.5 145.5 ± 11.7 167.4 ± 11.2

<外旋可動域の変化>

外旋可動域(°) 治療前 平均(SD) 2ヵ月後 平均(SD) 4ヵ月後 平均(SD)
CHL+IGHC群 31.6 ± 16.9 67.2 ± 11.1 81.3 ± 12.1
PGHR群 32.4 ± 13.4 49.3 ± 13.2 72.7 ± 18.0

<内旋レベル(スクラッチテスト)の変化>

内旋レベル 治療前 平均(SD) 2ヵ月後 平均(SD) 4ヵ月後 平均(SD)
CHL+IGHC群 6.2 ± 2.2 4.0 ± 2.2 2.7 ± 1.2
PGHR群 6.3 ± 1.4 5.4 ± 0.8 3.6 ± 1.0

コルチコステロイドは炎症を軽減するため烏口上腕靱帯の構造的な問題ではなく内旋を改善したとも考えられますが、しかしケースレポートでは肥厚した烏口上腕靱帯を切離することで2ndポジションと3rdポジションの内旋可動域が大幅に増加しています。さらに烏口上腕靱帯は切離後、外転、1stポジションでの外旋、3rdポジションでの外旋と内旋可動域も増加させている報告もあることから、結滞動作、2ndポジション、3rdポジションで内旋を制動している可能性があります[2][3]。

切離場所から烏口突起から上腕二頭筋腱に至る(烏口突起基部から上内側関節包までの)烏口上腕靱帯が制限していると予想されます。しかし烏口上腕靱帯は広い付着部と様々な組織との結合があるため単純な解剖学的な知識ではどのように制限に寄与しているかは明らかにはできません。

臨床的意義

烏口上腕靱帯は拘縮肩において内旋を制限する可能性があります。
そのため烏口上腕靱帯は内旋制限がある患者さんへの介入対象の一つに含めることができます。

とはいえ9~72週間のストレッチは拘縮に対して可動域をほとんど(1~3度しか)向上させない報告もあり、臨床的には徒手介入やストレッチで拘縮した組織に介入して効果が認められるとは言い難いです[4]。
組織に変化を与えるのであれば上記されているように注射か外科的な介入が必要かもしれません。

また従来の解剖研究から「1stポジションで外旋が制限され、60°以上の外転位で大きく制限されなくなった」場合に烏口上腕靱帯を疑うことはできますが、妥当性が不明であるため追加の情報として外転、1stポジションでの外旋、2ndポジションと3rdポジションでの内旋制限が揃うことが条件として利用できる可能性があります[5][6]。

 

参考文献
[1]Lee, S. H., Choi, H. H., & Chang, M. C. (2022). Comparison Between Corticosteroid Injection Into Coracohumeral Ligament and Inferior Glenohumeral Capsule and Corticosteroid Injection Into Posterior Glenohumeral Recess in Adhesive Capsulitis: A Prospective Randomized Trial. Pain physician, 25(6), E787–E793.
[2]Koide M, Hamada J, Hagiwara Y, Kanazawa K, Suzuki K. A Thickened Coracohumeral Ligament and Superomedial Capsule Limit Internal Rotation of the Shoulder Joint: Report of Three Cases. Case Rep Orthop. 2016;2016:9384974. doi: 10.1155/2016/9384974. Epub 2016 Mar 30. PMID: 27123353; PMCID: PMC4829705.
[3]Hagiwara, Y., Sekiguchi, T., Ando, A., Kanazawa, K., Koide, M., Hamada, J., Yabe, Y., Yoshida, S., & Itoi, E. (2018). Effects of Arthroscopic Coracohumeral Ligament Release on Range of Motion for Patients with Frozen Shoulder. The open orthopaedics journal, 12, 373–379. https://doi.org/10.2174/1874325001812010373
[4]Harvey, L. A., Katalinic, O. M., Herbert, R. D., Moseley, A. M., Lannin, N. A., & Schurr, K. (2017). Stretch for the treatment and prevention of contracture: an abridged republication of a Cochrane Systematic Review. Journal of physiotherapy, 63(2), 67–75. https://doi.org/10.1016/j.jphys.2017.02.014
[5]Neer, C. S., 2nd, Satterlee, C. C., Dalsey, R. M., & Flatow, E. L. (1992). The anatomy and potential effects of contracture of the coracohumeral ligament. Clinical orthopaedics and related research, (280), 182–185.
[6]Ferrari D. A. (1990). Capsular ligaments of the shoulder. Anatomical and functional study of the anterior superior capsule. The American journal of sports medicine, 18(1), 20–24. https://doi.org/10.1177/036354659001800103

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