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烏口上腕靱帯の外旋制限作用
Neerらは新鮮組織検体5点を含む63点の肩を解剖しました[1]。
検体:検体63点、平均年齢75歳
解剖の手順:皮膚と皮下組織の除去→三角筋と大胸筋を起始部から解放→鎖骨を除去
59点の肩で明瞭でよく発達した構造であり、4点の肩では欠如しているか消失していました。
烏口上腕靱帯肩甲骨付着部の特徴
烏口上腕靱帯の肩甲骨付着部は烏口突起基部外側で一貫しているようでした。
起始部は一般に烏口突起の最も後方から始まりましたが、7~24mm前方に伸びたものもありました。
Neerらの文献には付着部の図説がないため文章から推測し、烏口突起の長さは平均24mm(19~30mm)程度であるという別の報告[3]を参考に作成しました。ただし付着部の面積や高さ、幅については言及されていないため付着部の高さは想像上のものになります。

烏口上腕靱帯上腕骨付着部の特徴
棘上筋腱と肩甲下筋腱の間のローテーターインターバル(Rotator interval)に付着しています。
14点の肩では、棘上筋腱に付着し、16点の肩では靱帯から肩甲下筋腱への二次的なスリップが認められました。

外旋制限作用
新鮮組織検体5点では肩関節を1stポジションで最大外旋すると靭帯がタイトになりました。次にこの靱帯を切断すると外旋は平均32°増加しました。しかし肩甲平面上の90°挙上位では増加は平均15°のみでした。
そのため烏口上腕靱帯は1stポジションで外旋を制限しており、肩甲平面上の90°挙上位ではこの作用が弱くなることが予想されます。

烏口上腕靱帯の外旋制限作用
Ferrari(1990)は新鮮組織検体50点、100点の肩を解剖しました[2]。
検体:新鮮組織検体50点、100点の肩、 18歳~80歳
解剖の手順:三角筋前部繊維を鎖骨から切除→烏口肩峰靱帯(Coracoacromial ligament)を烏口突起付近で切開→烏口突起の先端が切断され結合している腱を肩甲下筋から分離→肩甲下筋の切開は腱から離れ筋腹で行われました。
烏口上腕靱帯肩甲骨付着部の特徴

烏口上腕靱帯上腕骨付着部の特徴
烏口上腕靱帯は棘上筋前縁と肩甲下筋及び腱の上縁と、ローテーターインターバルを覆いました。
後方では棘上筋への付着部が筋のfasciaと結合していました。
前方では肩甲下筋腱小結節への停止部と結合していました。
下方では上関節上腕靱帯と強固に結合し、分離不可能でした。
※実際には上関節上腕靱帯もここに寄与します。

Neerらは棘上筋腱に付着するケースと肩甲下筋腱付着するケースとあるいは全体に付着するような表現をしていますが、Ferrariはこのような報告はしませんでした。
烏口上腕靱帯の外旋制限作用
烏口上腕靱帯は、肩の内旋では緩み外旋では緊張しているように見え、さらに以下の3つの動作では緊張したままでした。
・肩関節外転角度が60°以下で肩を外旋した時
・上腕骨外転60°以下で伸展させ外旋した時
・上腕が下方に引っ張られた時
伸展位で外旋させると、小結節への烏口上腕靱帯の前方付着部が緊張するようです。

烏口上腕靱帯と中関節上腕靱帯の違い
烏口上腕靱帯は外転が 60°を超えると短縮し、外旋に抵抗する機能を失います。一方で中関節上腕靱帯は外転90°までの外旋制動作用を維持しました。
中関節上腕靱帯と烏口上腕靱帯で連携して、特に外転0°から60°までの外旋を制動しているようです。

<90°外転時の短縮した烏口上腕靱帯と中関節上腕靱帯>

<2つの外転角度における外旋制限因子>
外転角度 | 外旋制限 |
0~60° | 烏口上腕靱帯と中関節上腕靱帯 |
60~90° | 中関節上腕靱帯 |
烏口上腕靱帯・上関節上腕靱帯・中関節上腕靱帯・下関節上腕靱帯のZパターン
このパターンは、88%に存在し中関節上腕靱帯が細すぎるか弱いとZパターンではなくなります。

臨床的意義
烏口上腕靱帯は肩関節外旋と下制の制限因子です。
外転位でこの作用が減衰することから、烏口上腕靱帯が制限するか確認する検査法は1stポジションで外旋が制限され、60°以上の外転位で大きく制限されなくなったら疑うことができます。
拘縮肩では外転が制限されるため90°まで上げることができないのが一般的ですが、60°まで挙上できれば検査できることになります。
また外転60°でも制限があり、外転90°で制限がなくなれば中関節上腕靱帯を制限因子として疑うことができます。
しかしこれらの検査は妥当性が検証されなければならない以外にも考慮すべき問題点があります。
中関節上腕靱帯は全ての人で発達しているわけではありません。肉眼で皮膚の上から中関節上腕靱帯の有無を確認することができないため特に12%の人ではこの検査は適用できないと考えられます。
この検査は肩甲下筋のような外旋制限因子を一切考慮していません。
起始と停止から考えると肩甲下筋は外転で伸張するため、60°~90°時に肩甲下筋が制限因子となることで見かけ上1stポジションと2ndポジションどちらも制限されていたとしても制限因子が異なる可能性があり、この場合例え烏口上腕靱帯が主要な制限因子であったとしても「1stポジションで外旋が制限され、60°以上の外転位で大きく制限されない」といった陽性所見は成り立たなくなります。
また拘縮肩のような特殊な条件下では(それが検体であるかは関係なく)正常な解剖学から予想された通りに可動域を制限するとは限らないためあくまでこのような検査は机上のものになります。
[2]Ferrari D. A. (1990). Capsular ligaments of the shoulder. Anatomical and functional study of the anterior superior capsule. The American journal of sports medicine, 18(1), 20–24. https://doi.org/10.1177/036354659001800103
[3]Limskul, Danaithep & Apinun, Jirun & Huanmanop, Thanasil & Kuptniratsaikul, Somsak. (2022). Anatomy of the coracoid process in Thais: Cadaveric study and clinical implications. Translational Research in Anatomy. 26. 100168. 10.1016/j.tria.2022.100168.
記事情報
- 公開日:2023/09/23
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画像:11枚 - 最終更新日:2023/09/23
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