腰痛は腰だけの問題ではない
腰痛を有する人の多くが他の部位にも痛みを有していることが繰り返し報告されている[1][2][3][4].
・慢性腰痛のうち腰単独の痛みを有する人の割合は13%.
・腰痛を有する人の86%は腰以外にも痛みを有する.
・他の部位慢性痛のある人はない人に比べて慢性的な脊椎の痛みの有病率が3倍以上高い.
・頭痛を持つ人の腰痛の有病率は頭痛なしの人よりも高い.
特に多部位の痛みを持つ人は心理的苦痛がある人や日常生活に障害がある人にみられやすく,痛みが強く,痛みを感じる頻度も高い.痛みの部位数が多いとその後回復しにくいことも報告されており,臨床的にはかなり重要な問題と言える.
詳しくは「#15 痛みの部位数の重要さ」「#13 腰痛患者のうち,腰痛だけに痛みを持つ人は少ない」「#11 背中の痛みは単なる背中の問題なのか?」で説明している.
部位に捉われないことでできること
この様な理由で,腰痛患者さんを見る際に,単に"腰の"痛みと解釈すべきではないかもしれない.
そうすることで腰痛の原因を探るときに,"腰の痛みを誘発する何か"ではなく"体の痛みを誘発する何か"という視点を持つことができ,治療に関しても"腰の治療"ではなく,"体の痛みの治療"という選択肢が生まれる.
例えば腰痛治療では,腰を焦点に当てた運動療法が指導される様子を見かけることが多い.腰以外のエクササイズでも目的は腰に影響を与えることを前提にしていることが多い(ハムのストレッチなど).
このような手段でも問題ないが,腰から焦点を広げることで,ウォーキングやサイクリングなどより日常生活に取り入れやすいエクササイズの選択肢を含めやすくなる.
また多部位の痛みを持つ患者さんに1部位あたり1つの治療を割り当てると,時間もかかり,自宅でのエクササイズなど覚えることも増える.全身の痛みに1つの治療を割り当てることは効率的でもある.
[2]Coggon, D., Ntani, G., Walker-Bone, K., Palmer, K. T., Felli, V. E., Harari, R., Barrero, L. H., Felknor, S. A., Gimeno, D., Cattrell, A., Vargas-Prada, S., Bonzini, M., Solidaki, E., Merisalu, E., Habib, R. R., Sadeghian, F., Kadir, M. M., Warnakulasuriya, S. S., Matsudaira, K., Nyantumbu, B., … Salazar Vega, E. J. (2017). Epidemiological Differences Between Localized and Nonlocalized Low Back Pain. Spine, 42(10), 740–747. https://doi.org/10.1097/BRS.0000000000001956
[3]Von Korff, M., Crane, P., Lane, M., Miglioretti, D. L., Simon, G., Saunders, K., Stang, P., Brandenburg, N., & Kessler, R. (2005). Chronic spinal pain and physical-mental comorbidity in the United States: results from the national comorbidity survey replication. Pain, 113(3), 331–339. https://doi.org/10.1016/j.pain.2004.11.010
[4]Vivekanantham, A., Edwin, C., Pincus, T., Matharu, M., Parsons, H., & Underwood, M. (2019). The association between headache and low back pain: a systematic review. The journal of headache and pain, 20(1), 82. https://doi.org/10.1186/s10194-019-1031-y