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BPSモデルが必要な理由


現在痛みはBPS modelを主体に考えられることが増えてきました。

IASP(国際疼痛学会)もそれに合わせて痛みの定義を変えようとしています。

そのBPS modelの基盤を提唱したのはジョージ・エンゲルで、1977年の事でした。

BPSというのは、病気(あるいは痛みなどの苦しみ)に対して生物学的、つまり病理学や解剖学だけでなく、心理学的、社会的側面に同時に注意を払わなければならないという考えが根底にあります。

この生物学的(biological)、心理学的(psychological)、社会的(social)の頭文字をとってBPSモデルと呼んでいます。

重要なこととして、なぜわざわざこれまでの生物医学モデル(biomedical model)からBPS model(bio-psycho-social model)に考え方を拡張する必要があったのかをみていきます。

BPSモデルが必要な理由

エンゲルは生物医学モデルに対して7つの批判的な考えを持っていました。

1. 生化学的変化が直接病気にはなるわけではありません。疾患の出現は、分子レベル、個人レベル、社会レベルなどの多様な原因因子の相互作用に起因します。逆にいえば心理学的変化は、特定の状況下では、健康の問題を構成する病気や苦痛の形態として現れることがあり、これには時に生化学的相関が含まれます。

(原文: A biochemical alteration does not translate directly into an illness. The appearance of illness results from the interaction of diverse causal factors, including those at the molecular, individual, and social levels. And the converse, psychological alterations may, under certain circumstances, manifest as illnesses or forms of suffering that constitute health problems, including, at times, biochemical correlates)

2. 生物学的障害の存在は、患者の症状の意味を明らかにするものではなく、臨床家が情報を収集し、それを適切に処理しなければならない姿勢やスキルを必ずしも推測するものでもありません。

(原文: The presence of a biological derangement does not shed light on the meaning of the symptoms to the patient, nor does it necessarily infer the attitudes and skills that the clinician must have to gather information and process it well)

3. 心理社会的な変数は、疾患の生物医学的見解を持ち続けている人たちが以前に認識していたよりも、疾患の感受性、重症度、および経過のより重要な決定因子です。

(原文:Psychosocial variables are more important determinants of susceptibility, severity, and course of illness than had been previously appreciated by those who maintain a biomedical view of illness)

4. 病気が及ぼす影響力は、必ずしも生物学的障害の存在と関連しているわけではありません。

(原文:Adopting a sick role is not necessarily associated with the presence of a biological derangement)

5. ほとんどの生物学的治療の成功は心理社会的因子、例えば、いわゆるプラセボ効果に影響されます。

(原文:The success of the most biological of treatments is influenced by psychosocial factors, for example, the so-called placebo effect)

6.患者と臨床家の関係は、たとえそれが選択された治療へのアドヒアランス(患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けること)に影響するだけであっても、医学的な転帰に影響を及ぼしやす。

(原文:The patient-clinician relationship influences medical outcomes, even if only because of its influence on adherence to a chosen treatment)

7.科学的検査は無生物学の対象とは異なり、患者は研究の方法に大きく影響され、研究に従事する科学者はその対象に影響されます。

(原文:Unlike inanimate subjects of scientific scrutiny, patients are profoundly influenced by the way in which they are studied, and the scientists engaged in the study are influenced by their subjects)

簡単に言えば、従来の生物医学モデルは人間味がない、人間性がない、人間らしくない、まるで無生物のような扱いをしていることに問題があります。

人間性を失わせる医学的思考には3つの要素があります。

1.生物医学モデルは二元論的です。具体的には心身を分離しています(心身二元論)

2.医学的思考は過度で還元主義的です。つまりこれらの原理によれば、細胞や分子の過程のレベルで客観的に検証したり説明したりできないものは無視されたり、軽視される傾向にあります。

3.観測する時、何らかの形で妨害せずに内部からシステムを理解することはできません。

これらの問題を解決するためのパラダイムの拡大がBPSモデルです。

BPSモデルは生物医学モデルのパラダイムシフトではありません。

痛み(慢性疼痛)のBPSmodel(生物社会心理モデル)をシンプルに解説します。従来、多くの慢性疼痛に携わる臨床家は生物医学モデル(biomedical model)と呼ばれる痛みの理解をしてきました。 痛みは神経...

 

参考文献

Borrell-Carrió F, Suchman AL, Epstein RM. The biopsychosocial model 25 years later: principles, practice, and scientific inquiry. Ann Fam Med. 2004;2(6):576–582. doi:10.1370/afm.245

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