動画で学べる腋窩神経ノート

完成していませんが徐々に作成していきます。

第1章 腋窩神経の解剖学

腋窩神経は腕神経叢後神経束の2つの終末枝のうちの1つである混合神経(mixed nerve)です。
腋窩神経を構成する神経繊維は主にC5とC6から来ており、時折C4からの寄与もあります[2]。
この神経は肩周囲筋の運動を支配したり、上腕外側の感覚を司っています。

腋窩神経の走行

腋窩神経は腕神経叢の後神経束から分枝します。分枝する場所は肩甲下筋の前面、腋窩動脈の後方で、同じ後神経束の終枝である橈骨神経の外側に出ます。
その後、肩甲上腕関節関節包の下方で四辺形間隙(Quadrilateral Space)を通過します。四辺形間隙は外側腋窩隙(Lateral axillary space)とも呼ばれます。そして
、上腕骨外科頸(surgical neck)の後面を回ります。

腋窩神経の英語と覚え方

腋窩神経は英語でAxillary Nerveと呼びます。Axと略されていることもあります。
AxillaryはAxil+aryに分解することができます。
Axilは葉の付け根を意味する葉腋のことです。葉の付け根と脇の付け根が関連している認識が英語スペルを覚える上で大事になってきます。
aryはLibraryなどのaryと同じで名詞化したり形容詞にする機能を持ち、「〇〇に関する」という意味も持ちます。
これらを繋げると葉の付け根に関連するものとして腋窩を思い浮かべることができます。
あとは神経のNerveを合わせてAxillary Nerveになります。

 

腋窩神経と四辺形間隙の関係

腋窩神経は四辺形間隙(Quadrilateral Space)を通過します。
四辺形間隙の構成は以下の4つです。
・内側面:上腕骨
・外側面:上腕三頭筋長頭
・上面:小円筋
・下面:大円筋
四辺形間隙を通過するのは以下の2つです。
・腋窩神経
・後上腕回旋動脈

四辺形間隙で生じる腋窩神経の絞扼障害を四辺形間隙症候群(QLSS : Quadrilateral space syndrome)と呼びます。

四辺形間隙の関連構造:三角隙と三角間隙

四辺形間隙の内側には三角隙(TS:Triangular space)があり、下方には三角間隙(TI:Triangular interval)があります。三角隙は内側腋窩隙とも呼ばれます。
三角隙の構成は以下の4つです。
・上面:小円筋
・下面:大円筋
外側面:上腕三頭筋長頭
三角隙を通過するのは以下の1つです。
・肩甲回旋動脈

三角間隙の構成は以下の4つです。
・上面:大円筋
・内側面:上腕三頭筋長頭
外側面:上腕三頭筋外側頭または上腕骨
三角間隙を通過するのは以下の2つです。
・上腕深動脈(Profunda brachii artery)
・橈骨神経(Radial nerve)

四辺形間隙の形状

Tubbsらはホルマリン固定した15点30の四辺形間隙の形状を測定しました[1]。
四辺形間隙の平均高さは2.5cm、平均幅は2.5cm、平均深さは1.5cmでした。
腋窩神経は常に四辺形間隙の中で最も上位の構造であり、すべての症例で神経と動脈は上腕三頭筋外側頭起始部のすぐ上で上腕骨外科頚に沿って進んでいました。そのため腋窩神経はすべての標本で四辺形間隙の上外側に位置します。
また腋窩神経の33%は四辺形間隙内で、66%は四辺形間隙の後方で分岐していました。

腋窩神経前枝・後枝

Loukasらは100点の標本から三角筋内の腋窩神経の解剖学的変異を調査しました[3]。
腋窩神経は、65%で四辺形間隙内で前枝と後枝に分かれ、35%で三角筋内で分かれました。

腋窩神経が前枝と後枝に分かれる部位

四辺形間隙内 三角筋内
65% 35%

すべての標本で、後枝は前枝よりも上部に位置していました。前枝は後上腕回旋動脈とともに上腕骨外科頸部を上昇し、三角筋前部繊維に分布します。後枝は100%の症例で小円筋と上外側上腕皮神経への分岐を与えました。後枝による三角筋後部繊維への枝は90%の症例に存在し、三角筋中部繊維への枝は38%の症例に存在しました。

前枝は100%の症例で関節包への枝と三角筋前部・中部繊維への枝を送った18%の症例では、前枝は三角筋後部繊維に枝を送っていました。

三角筋の中部繊維と後部繊維は、それぞれ38%と18%の症例で二重の神経支配を受けています。

腋窩神経前枝の神経分布

関節包 三角筋前部繊維 三角筋中部繊維 三角筋後部繊維
100% 100% 100% 18%

腋窩神経後枝の神経分布

小円筋 上外側上腕皮神経 三角筋後部繊維 三角筋中部繊維
100% 100% 90% 38%

TiwariとNayakは50点の腕神経叢から腋窩神経が分岐するポイントは烏口突起前内側と肩峰後外側からそれぞれ3.67cmと6.43cmであることを見つけました[5]。

著者 検体数 烏口突起からの距離 肩峰からの距離
Gurushantappa PK et al. 50 3.56 7.46
Tubbs RS et al. 30 4 -
Uz A et al. 75 - 7.8
Burkhead WZ et al. 56 - 5
Tiwari and Nayak 50 3.67 6.43

Kulkarniらは66点の検体から三角筋部での腋窩神経前枝の高さを調査しました[4]。
結果として三角筋の中点から2.2~2.6cm上方に腋窩神経前枝が走行していました。
この研究はドクターにとっては筋肉注射で有害事象を引き起こさないようにするために必要なものですが、鍼灸師にとっては腋窩神経前枝損傷のリスクを減らすことができるかも知れません。

腋窩神経の支配筋

腋窩神経が支配する筋は三角筋と小円筋の2つです。

腋窩神経の感覚支配領域

腋窩神経は上外側上腕皮神経(Upper lateral brachial nerve)となり、上腕外側の感覚を支配します。

 

参考文献
[1]Tubbs, R. S., Tyler-Kabara, E. C., Aikens, A. C., Martin, J. P., Weed, L. L., Salter, E. G., & Oakes, W. J. (2005). Surgical anatomy of the axillary nerve within the quadrangular space. Journal of neurosurgery, 102(5), 912–914. https://doi.org/10.3171/jns.2005.102.5.0912
[2]Safran M. R. (2004). Nerve injury about the shoulder in athletes, part 1: suprascapular nerve and axillary nerve. The American journal of sports medicine, 32(3), 803–819. https://doi.org/10.1177/0363546504264582
[3]Loukas, M., Grabska, J., Tubbs, R. S., Apaydin, N., & Jordan, R. (2009). Mapping the axillary nerve within the deltoid muscle. Surgical and radiologic anatomy : SRA, 31(1), 43–47. https://doi.org/10.1007/s00276-008-0409-3
[4]Kulkarni, R. R., Nandedkar, A. N., & Mysorekar, V. R. (1992). Position of the axillary nerve in the deltoid muscle. The Anatomical record, 232(2), 316–317. https://doi.org/10.1002/ar.1092320217
[5]Tiwari, S.,  Nayak, J. N. (2017). Study of variations in the origin of axillary nerve from the posterior cord of brachial plexus and its clinical importance. International Journal of Anatomy and Research, 5(3.2), 4242–4246. https://doi.org/10.16965/ijar.2017.296

 

第2章 腋窩神経関連疾患

腋窩神経損傷

外傷性腋窩神経損傷(Traumatic Axillary Nerve Injury)はスポーツでは珍しく、一般的には全神経損傷の1%未満で生じます。腋窩神経はスポーツ選手の肩に関するほとんどの外科的処置で損傷する可能性があります。

ほとんどの腋窩神経損傷は、腕神経叢損傷の一部であり、腋窩神経の単独損傷は、腕神経叢損傷全体の0.3~6%に過ぎません。腋窩神経の損傷は、通常、脱臼や骨折に伴う肩の牽引損傷を伴う閉鎖性外傷(closed trauma)の後に起こることが最も多く、これは上腕骨頭の脱臼時に腋窩神経が上腕骨頭の上で伸張するためです。腋窩神経損傷の発生率は、肩関節前方脱臼(Anterior shoulder dislocation)の19%から55%、上腕骨近位端骨折(Proximal humeral fracture)の58%までと報告されています[1]。

これらの損傷の多くは、神経損傷が肩の骨折や脱臼の痛みによって隠されている可能性があるので、不顕性であると考えられます。

肩の脱臼による神経損傷のリスクは、脱臼時の患者の年齢が高くなる(40歳または50歳以上)、肩が固定されないまま放置される時間が長い(12時間以上)、脱臼を引き起こすのに必要な外傷の量が多いほど高くなります。

ヘルメットなどによる前外側面への鈍的外傷も、腋窩神経損傷を引き起こすことがあります。これは硬いヘルメットや地面と骨の間の三角筋の深部を移動する神経が圧迫されるためです。

腋窩神経損傷の症状と経過

腋窩神経損傷のある多くのアスリートは、完全または不完全な病変があっても無症状です。しかし、しばしば、運動すると、特にオーバーヘッド動作や重い荷物を持ち上げたときに、すぐに疲労することがあります。

また、外転筋力の低下や腕を上げることができない、腕の外側のしびれことで気付くこともあります。
上腕と肩の感覚が正常でも、三角筋の完全な筋力低下が生じることがあることに注意する必要があります。

脱臼や骨折による腋窩神経損傷は、受傷から6~12ヶ月以内に非外科的な管理で85~100%の確率で完全回復しますが、肩前外側への直撃による腋窩神経損傷の予後はあまり楽観的ではありません。肩の骨折や脱臼による損傷であれば、神経の回復は一般的に良い予後であることを選手に安心させることができ、直撃による損傷の場合は、三角筋の麻痺が持続しても、スポーツへの復帰は可能であると安心させることができます。

四辺形間隙症候群

四辺形間隙症候群(RLSS/QSS:Quadrilateral Space Syndrome)はCahillとPalmerによって1983年に初めて報告されました[2]。
しかし症例報告はほとんどなく、この症状が極めて稀であるか診断が非常に困難であること可能性があります。四辺形間隙症候群は、20歳から40歳までの若い活動的な成人、例えば野球選手や伸ばした手の上に転倒した人で見られます。この症候群に悩まされるアスリートの病歴と身体検査は曖昧で非特異的であり、その結果、この症候群の患者は、過去に複数の外科的処置を受けたが改善しなかったことが珍しくない

この問題を抱えるアスリートは、肩の外側と後面にかけて、限局性の悪い、鈍い痛みや灼熱感のある痛みを訴えます。この痛みは、発症当初は鈍く、活動、特に外転、外旋、伸展によって増悪することが多い。 スポーツ選手は、頭上での活動で脱力を感じることがあります。野球、テニス、バレーボールなど、頭上で繰り返し使うスポーツに携わる選手に多く見られるようです。患者さんによっては、肩後部の四辺形腔に圧痛がある場合もあります.

 

参考文献
[1]Safran M. R. (2004). Nerve injury about the shoulder in athletes, part 1: suprascapular nerve and axillary nerve. The American journal of sports medicine, 32(3), 803–819. https://doi.org/10.1177/0363546504264582
[2]Cahill, B. R., & Palmer, R. E. (1983). Quadrilateral space syndrome. The Journal of hand surgery, 8(1), 65–69. https://doi.org/10.1016/s0363-5023(83)80056-2

 

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