アキレス腱症/ アキレス腱障害(Achilles tendinopathy)

アキレス腱症/ アキレス腱障害(Achilles tendinopathy)は足の使い過ぎ(Overuse)による傷害の中でも最も頻度の高いもののひとつであり、痛み、腫れ、パフォーマンスの低下を伴う臨床的な症候群です[1]。

アキレス腱症は、解剖学的部位によって大きく以下の2つに分類されます[1][4][5]。

・アキレス腱付着部症(IAT:Insertional Achilles tendinopathy)
腱の踵骨後部への骨性付着部に影響を及ぼす疾患で、腱の遠位3分の1から停止部まで及ぶ痛みを経験します。また、朝のこわばりを経験することもあります。

・アキレス腱症(NIT:noninsertional Achilles tendinopathy)
アキレス腱の踵骨への停止部から2~6cm近位に生じます。触診では硬結(nodule)が目立ち、腱は肥大を示すことがあります。

病状がどこにあるかによって最適な治療法が異なる可能性があるため、この区別は臨床的意義があります。

腱の遠位3分の1から踵後部の停止部にかけての慢性疼痛や早朝のこわばりの他、踵骨の遠位3分の1および停止部の圧痛はアキレス腱付着部症を疑うヒントになります。

【用語解説】
・Overuse injury
Overuse injuryは「不適切な休息によって構造的適応が起こらなかった場合に、筋骨格系の最大下負荷が繰り返されることによる損傷」と定義されます[a]。損傷は、他の点では健康な組織に反復的な微小損傷(Microtrauma)が生じたり、既に損傷した組織に弱い力を繰り返し加えることによって生じることがあります。
またランニングの文脈では「少なくとも1週間、ランニングの速度・距離・時間・頻度が制限される筋骨格系の疾患」と定義されることもあります[b]。
・微小損傷(Microtrauma)
急性の臨床的損傷に至らない外傷。組織が回復しない微小損傷を繰り返すと、臨床的損傷につながる可能性があります[a]。

腱障害(Tendinopathy)

現在では腱障害(Tendinopathy)ではさらに「Tendinitis」「Tendinosis」「Tenosynovitis」に分類されています[2]。
・Tendinitis:
腱の痛みと炎症を定義する用語
・Tendinosis:観察された退行性変化を表す用語
接尾語「osis」は、炎症性疾患ではなく、変性プロセスを示しています[3]。
・Tenosynovitis:腱を取り囲む滑膜鞘(Synovial Sheath)の炎症であるため、主に腱自体に変性変化が見られる腱障害(Tendinopathy)とはみなされません。

アキレス腱の基本的な解剖学

アキレス腱(Achilles tendon)は遠位腓腹筋腱とヒラメ筋腱から構成されます。3つの腱は踵骨停止部の近位約12cm~15cmで合流します。
アキレス腱は捻れた構造をしており、ヒラメ筋部分は内側に、腓腹筋部分は踵骨後外側に停止します。
腓腹筋とヒラメ筋は脛骨神経から神経支配を受けており、アキレス腱は腓骨神経から感覚神経支配を受けています[5]。

腓腹筋(Gastrocnemius muscle)

腓腹筋は下腿後部にある大きな筋で、ヒラメ筋と合わせて下腿三頭筋(triceps surae)を構成しています。

起始 ・外側頭(Lateral head)
大腿骨の外側上顆(Lateral condyle)
・内側(Medial head)
大腿骨の内側上顆(Medial condyle)
停止 踵骨隆起
支配神経 脛骨神経; S1,2(Tibial nerve)
作用 足の底屈、膝関節屈曲

ヒラメ筋(Soleus muscle)

腓腹筋は下腿後部にある大きな筋で、腓腹筋よりも深部に位置します。ヒラメ筋と合わせて下腿三頭筋(triceps surae)を構成しています。

起始 脛骨後面のヒラメ筋線(Soleal line)、腓骨内側縁、腓骨頭、ヒラメ筋腱弓
停止 踵骨隆起
支配神経 脛骨神経; S1,2(Tibial nerve)
作用 足の底屈

アキレス腱症に対するエキセントリックトレーニングの効果

Kediaら(2014)は36人の被験者をエキセントリックストレングス群とストレッチ群に分けて効果を比較しました[6]。
運動は合計で12週間、自宅で行われました。

ストレッチ群は腓腹筋・ヒラメ筋・ハムストリングのストレッチ、1日2回のアキレス腱のアイスマッサージ(5~10分)、両側のヒールリフトの使用、安静時ナイトスプリントで構成されました。各ストレッチは1日2回、3回(30秒)繰り返すよう指示されました。

エキセントリックストレングス群はストレッチ群のプロトコルのすべてに2つのエキセントリックストレングスエクササイズを追加しました。
1つ目のエクササイズでは、患者は段差の上に立ち、膝関節屈曲位で5つ数えながらゆっくりと足を背屈位になるように下げました。
もう一方の脚は、患者が足底屈位に戻るのを補助するために使用することができます。
2つ目のエクササイズでは、患者は段差の上に立ち、膝関節伸展位で5つ数えながらゆっくりと足を背屈位になるように下げました。

この2つのエクササイズは15回×2セット、1日2回行いました。
またエクササイズが楽に行えるようになったら、重りのついたバックパックを追加するように指示されました。

結果として両群とも疼痛強度は改善しましたが、効果に差はありませんでした。

ベースライン時と比較した12週時点の疼痛強度(マイナスの数値が大きいほど大きな改善を示す)

エキセントリックストレングス群の平均変化 ストレッチ群の平均変化
VAS −2.19 −2.08

臨床的意義

アキレス腱症にはエキセントリックトレーニングの使用をサポートされ一般的によく利用されていますが[8]、ストレッチにエキセントリックトレーニングを追加することでより高い効果が得られませんでした。
臨床的にはストレッチにエキセントリックトレーニングを追加する利点は少ないかもしれません。ただし、ストレッチとエキセントリックトレーニングの比較ではないため、運動療法の選択肢としてストレッチとエキセントリックトレーニングどちらが優れているかはここから判断できません。また
サンプル数の少なさや、追跡調査が短いなどといった制限があるため制限があります。

この報告は疼痛強度を減少させていますが、自然経過との比較ではないため実際に介入によって効果があったことを意味するものではありません。
2021年のガイドラインでは積極的な治療を行わない場合のアキレス腱症の自然経過については、現在のところ十分な知見が得られていないことから積極的治療を行うべきか、それとも様子を見る方針でも十分なのかが疑問点として挙げられています[7]。それでもこれに関する報告はあるみたいなので「今回の文献を通して次に目を通したい文献は?」に含めます。

今回の文献を通して次に目を通したい文献は?

エキセントリックトレーニングと様子見の比較でキセントリックトレーニングの方が優れている報告
Eccentric loading, shock-wave treatment, or a wait-and-see policy for tendinopathy of the main body of tendo Achillis: a randomized controlled trial.
・エキセントリックエクササイズと装具による治療で差はなかった報告
Chronic Achilles tendinopathy: a prospective randomized study comparing the therapeutic effect of eccentric training, the AirHeel brace, and a combination of both
アキレス腱症に対して推奨されている180回反復運動プログラム(Alfredson protocol)と低反復プロトコルの比較では効果に差はなかった
Effectiveness of the Alfredson protocol compared with a lower repetition-volume protocol for midportion Achilles tendinopathy: a randomized controlled trial
・非競技者集団において、エキセントリック運動効果的ではない
Eccentric calf muscle training in non-athletic patients with Achilles tendinopathy

 

参考文献
[1]Li, H. Y., & Hua, Y. H. (2016). Achilles Tendinopathy: Current Concepts about the Basic Science and Clinical Treatments. BioMed research international2016, 6492597. https://doi.org/10.1155/2016/6492597
[2]Hopkins C, Fu SC, Chua E, Hu X, Rolf C, Mattila VM, Qin L, Yung PS, Chan KM. Critical review on the socio-economic impact of tendinopathy. Asia Pac J Sports Med Arthrosc Rehabil Technol. 2016 Apr 22;4:9-20. doi: 10.1016/j.asmart.2016.01.002. PMID: 29264258; PMCID: PMC5730665.
[3]Almekinders, L. C., & Temple, J. D. (1998). Etiology, diagnosis, and treatment of tendonitis: an analysis of the literature. Medicine and science in sports and exercise, 30(8), 1183–1190. https://doi.org/10.1097/00005768-199808000-00001
[4]Medina Pabón, M. A., & Naqvi, U. (2023). Achilles Tendinopathy. In StatPearls. StatPearls Publishing.
[5]Vo, T. P., Ho, G. W. K., & Andrea, J. (2021). Achilles Tendinopathy, A Brief Review and Update of Current Literature. Current sports medicine reports, 20(9), 453–461. https://doi.org/10.1249/JSR.0000000000000884
[6]Kedia M, Williams M, Jain L, Barron M, Bird N, Blackwell B, Richardson DR, Ishikawa S, Murphy GA. The effects of conventional physical therapy and eccentric strengthening for insertional achilles tendinopathy. Int J Sports Phys Ther. 2014 Aug;9(4):488-97. PMID: 25133077; PMCID: PMC4127511.
[7]de Vos, R. J., van der Vlist, A. C., Zwerver, J., Meuffels, D. E., Smithuis, F., van Ingen, R., van der Giesen, F., Visser, E., Balemans, A., Pols, M., Veen, N., den Ouden, M., & Weir, A. (2021). Dutch multidisciplinary guideline on Achilles tendinopathy. British journal of sports medicine, 55(20), 1125–1134. https://doi.org/10.1136/bjsports-2020-103867
[8]Sussmilch-Leitch SP, Collins NJ, Bialocerkowski AE, Warden SJ, Crossley KM. Physical therapies for Achilles tendinopathy: systematic review and meta-analysis. J Foot Ankle Res. 2012 Jul 2;5(1):15. doi: 10.1186/1757-1146-5-15. PMID: 22747701; PMCID: PMC3537637.
用語解説の参考文献
・Overuse injuryと微小損傷(Microtrauma)

[a]Hainline, B., Derman, W., Vernec, A., Budgett, R., Deie, M., Dvořák, J., Harle, C., Herring, S. A., McNamee, M., Meeuwisse, W., Lorimer Moseley, G., Omololu, B., Orchard, J., Pipe, A., Pluim, B. M., Ræder, J., Siebert, C., Stewart, M., Stuart, M., Turner, J. A., … Engebretsen, L. (2017). International Olympic Committee consensus statement on pain management in elite athletes. British journal of sports medicine, 51(17), 1245–1258. https://doi.org/10.1136/bjsports-2017-097884
[b]Hreljac A. (2004). Impact and overuse injuries in runners. Medicine and science in sports and exercise, 36(5), 845–849. https://doi.org/10.1249/01.mss.0000126803.66636.dd

 

記事情報

  • 公開日:2023/09/20
    参考文献を除く本文:3547文字
    参考文献を含む本文:5820文字
    画像:8枚
  • 最終更新日:2023/09/20
    更新情報無し

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