アキレス腱障害における鑑別

アキレス腱周囲に症状を呈する疾患はいくつかあり、鑑別する必要があります。
以下の疾患はアキレス腱障害に類似した症状を呈することがあります。

・踵骨後部滑液包炎
・三角骨症候群
・アキレス腱断裂
・足根管症候群
・後脛骨腱断裂
・長母趾屈筋腱腱鞘炎
・腓腹神経障害
・足底筋膜炎
・OLT(oseteochondral lesions of talus)
・骨折
・感染症

そのためアキレス腱障害を特定または除外するための手段が求められます。

アキレス腱症/ アキレス腱障害(Achilles tendinopathy)

アキレス腱症/ アキレス腱障害(Achilles tendinopathy)は足の使い過ぎ(Overuse)による傷害の中でも最も頻度の高いもののひとつであり、痛み、腫れ、パフォーマンスの低下を伴う臨床的な症候群です[2]。

アキレス腱症は、解剖学的部位によって大きく以下の2つに分類されます[2][3][4]。

・アキレス腱付着部症(IAT:Insertional Achilles tendinopathy)
腱の踵骨後部への骨性付着部に影響を及ぼす疾患で、腱の遠位3分の1から停止部まで及ぶ痛みを経験します。また、朝のこわばりを経験することもあります。

・アキレス腱症(NIT:noninsertional Achilles tendinopathy)
アキレス腱の踵骨への停止部から2~6cm近位に生じます。触診では硬結(nodule)が目立ち、腱は肥大を示すことがあります。

病状がどこにあるかによって最適な治療法が異なる可能性があるため、この区別は臨床的意義があります。

アキレス腱障害の検査方法

Maffulliらはアキレス腱障害に対する3つの検査の妥当性を調査しました[1]。

被験者:男性10名(平均年齢28歳)、対照群14名(平均年齢27.1歳)
参照基準:エコー、組織学的診断

圧痛

<検査の手順>
アキレス腱を近位から遠位方向に優しく触診し、母指と示指で腱を優しく挟む。
<陽性所見>
圧痛があれば陽性となる。

 

アークサイン Arc sign

<検査の手順>
患者は足関節を背屈・底屈させる。
<陽性所見>
触診でわかる腫脹部が足関節の背屈・底屈に伴って移動すると陽性とみなされる。

 

Royal London Hospital Test/ RLH test

<検査の手順>
①足関節ニュートラルまたはわずかに底屈させた状態で腱を触診する。
②足関節を背屈・底屈させ、最大背屈位と最大底屈位で当初圧痛が認められた部分を再度触診する。
<陽性所見>
最大背屈位において、最初に発見された圧痛点の痛みがなければ陽性となる。

アキレス腱障害の検査の感度・特異度・信頼性

感度はどの検査でもほとんど差がなく、高くはありませんでした。
特異度はRoyal London Hospital Testが最も高いと報告されました。

感度 特異度
圧痛 0.583 0.845
Arc sign 0.525 0.833
Royal London Hospital Test 0.542 0.912
感度 特異度
Combined tests(圧痛+Arc sign+Royal London Hospital Test) 0.586 0.833

尤度比の方が臨床的には使いやすいためこれらの感度特異度から計算すると以下のようになりました。

感度 特異度 陽性尤度比 陰性尤度比
圧痛 0.583 0.845 3.76 0.49
Arc sign 0.525 0.833 3.14 0.57
Royal London Hospital Test 0.542 0.912 6.16 0.50
感度 特異度 陽性尤度比 陰性尤度比
Combined tests(圧痛+Arc sign+Royal London Hospital Test) 0.583 0.845 3.47 0.49

検者内信頼性は人によって大きなばらつきがあり、検査の再現性は乏しい可能性があります。

<検者間信頼性>

κ
圧痛 0.72–0.85
Arc sign 0.55–0.72
Royal London Hospital Test 0.63–0.76

<検者内信頼性>

κ
圧痛 0.27–0.72
Arc sign 0.28–0.75
Royal London Hospital Test 0.60–0.89

臨床的意義

感度はどの検査でも大きな違いは見られませんでしたが、特異度及び陽性尤度比はRoyal London Hospital Testが最も高かったため、アキレス腱障害の検査法としてRoyal London Hospital Testが最も価値があります。
しかし感度は高くないためこれらの検査が陰性でもアキレス腱障害を除外することはできません。

 

参考文献
[1]Maffulli, N., Kenward, M. G., Testa, V., Capasso, G., Regine, R., & King, J. B. (2003). Clinical diagnosis of Achilles tendinopathy with tendinosis. Clinical journal of sport medicine : official journal of the Canadian Academy of Sport Medicine13(1), 11–15. https://doi.org/10.1097/00042752-200301000-00003
[2]Li, H. Y., & Hua, Y. H. (2016). Achilles Tendinopathy: Current Concepts about the Basic Science and Clinical Treatments. BioMed research international, 2016, 6492597. https://doi.org/10.1155/2016/6492597
[3]Medina Pabón, M. A., & Naqvi, U. (2023). Achilles Tendinopathy. In StatPearls. StatPearls Publishing.
[4]Vo, T. P., Ho, G. W. K., & Andrea, J. (2021). Achilles Tendinopathy, A Brief Review and Update of Current Literature. Current sports medicine reports, 20(9), 453–461. https://doi.org/10.1249/JSR.0000000000000884

 

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