Malmströmらは健常者を対象に頚椎の可動域を調査し、側屈以外の動作で参考可動域よりも大幅に高い平均可動域を報告しましたが、対象者は22~58歳に限られ可動域を「できる限り」の範囲で動かし測定したため参考可動域以上の結果が得られた可能性があります[2]。

平均可動域(A) 参考可動域(B) 差(A-B)
屈曲 65° 60° +5°
伸展 67° 60° +7°
右回旋 76° 60° +16°
左回旋 76° 60° +17°
右側屈 41° 50° -9°
左側屈 42° 50° -8°

特に60歳以上の高齢者では急激に可動域が減少する可能性があり、より高い年齢層で調査すると本邦の参考可動域と平均可動域がより近づくと考えられます。

本邦における頸椎の参考可動域

日本整形外科学会、日本リハビリテーション医学会、日本足の外科学会によって2022年4月に改訂された「関節可動域表示ならびに測定法」に掲載されている参考可動域は以下の通りです。

<頸椎屈曲>

参考可動域 基本軸 移動軸 測定肢位および注意点 参考図
0-60° 肩峰を通る床への垂直線 外耳孔と頸頂を結ぶ線 頭部体幹の側面で行う
原則として腰かけ座位と する

<頸椎伸展>

参考可動域 基本軸 移動軸 測定肢位および注意点 参考図
0-50° 肩峰を通る床への垂直線 外耳孔と頸頂を結ぶ線 頭部体幹の側面で行う
原則として腰かけ座位と する

<頸椎側屈>

参考可動域 基本軸 移動軸 測定肢位および注意点 参考図
0-50° 第7頚椎棘突起と第1仙椎の棘突起を結ぶ線 頭頂と第7頚椎棘突起を結ぶ線 体幹の背面で行う
腰かけ座位とする

<頸椎回旋>

参考可動域 基本軸 移動軸 測定肢位および注意点 参考図
0-60° 両側の肩峰を結ぶ線への垂直線 鼻梁と後頭結節を結ぶ線 腰かけ座位で行う

19~85歳の健常者における頸椎の平均可動域

Tousignantらは19~85歳の健常者を対象に頚椎の可動域を調査しました[1]。
この研究では体幹や肩を動かさないように代償動作に注意が向けられました。
結果は以下の通りです。

被験者:女性34名(平均59歳; 21~85歳)、男性21名(平均56歳; 19~80歳)
包含基準:18歳以上、1.5時間の評価に参加できる
除外基準:関節リウマチのある被験者、医師の診察が必要な最近の頚椎外傷のある被験者
肢位:座位
運動様式:能動的
測定器:cervical range of motion device

平均(A) 参考可動域(B) 差(A-B)
屈曲 47° 60° -13°
伸展 50° 60° -10°
右回旋 56° 60° -4°
左回旋 56° 60° -4°
右側屈 30° 50° -20°
左側屈 33° 50° -17°

Malmströmらの報告とは異なり、全ての動作が本法の参考可動域より低くなりました。

<Tousignant(2006)とMalmström(2003)と参考可動域の比較>

平均可動域
Tousignant(2006)(C)
平均可動域
Malmström(2003)(D)
参考可動域(E) 参考可動域との差
(C-E)
参考可動域との差
(D-E)
研究間の差
(D-C)
屈曲 47° 65° 60° -13° +5° +18°
伸展 50° 67° 60° -10° +7° +17°
右回旋 56° 76° 60° -4° +16° +20°
左回旋 56° 76° 60° -4° +17° +20°
右側屈 30° 41° 50° -20° -9° +11°
左側屈 33° 42° 50° -17° -8° +9°

TousignantらとMalmströmらの報告では平均可動域に9~20°の差がありました。
屈曲・伸展・回旋については参考可動域は2つの研究間の間に含まれる数値になります。

側屈はどちらの報告よりも参考可動域の方が大きいようです。

この2つの報告だけを参照すると年齢や恐らくエンドレンジをどう設定するかによって測定誤差がかなりばらつきます。
しかし側屈に関しては参考可動域を基準にすると、臨床での測定結果を低い可動域と誤って判断してしまうことが示唆されることは一致していました。

 

参考可動域
[1]Tousignant, M., Smeesters, C., Breton, A. M., Breton, E., & Corriveau, H. (2006). Criterion validity study of the cervical range of motion (CROM) device for rotational range of motion on healthy adults. The Journal of orthopaedic and sports physical therapy, 36(4), 242–248. https://doi.org/10.2519/jospt.2006.36.4.242
[2]Malmström, E. M., Karlberg, M., Melander, A., & Magnusson, M. (2003). Zebris versus Myrin: a comparative study between a three-dimensional ultrasound movement analysis and an inclinometer/compass method: intradevice reliability, concurrent validity, intertester comparison, intratester reliability, and intraindividual variability. Spine, 28(21), E433–E440. https://doi.org/10.1097/01.BRS.0000090840.45802.D4

記事情報

  • 公開日:2023/10/09
    参考文献を除く本文:1612文字
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  • 最終更新日:2023/10/09
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本記事は一介の臨床家が趣味でまとめたものです。そのため専門的な文献に比べ、厳密さや正確性は不十分なものとなっています。引用文献を参照の元、最終的な情報の取り扱いは個人にお任せします。誤りや不適切な表現を見つけた際、誤字を修正した場合、追記した時には「記事情報」に記述します。

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