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僧帽筋は触診できるか?【触診を批判する】


触診は臨床において必須のスキルです。

その前提を基に当記事をすすめていきます。

徒手療法を行っているのをみてその触診精度に疑問をもったことはありますか? 

触診を練習し始めた時のことを思い出すと、最初のうちは第7頚椎と第1胸椎を触り分けるのも難しく、一つ一つの椎骨棘突起を触り分けるのも時間もかかります。

こういった確実に触診可能な組織は練習を積み重ねることでどんどんスピードと精度が向上します。

梨状筋も最初はみつけるのに苦労します。

しかしなれてくると見つけやすくなります。

つまり練習によって触診力は変化します。

さらに、

解剖学の知識をつけることでその組織が突然触れるようになります。

例えば脊柱の椎間関節の触診は椎間関節の触診を意識しないうちはほとんど触れたことに気付きません。

しかし椎間関節が触知可能と知らされることで、椎間関節が触診できるようになります。

つまり知識によって触診できる組織が増えます。

 

このような経験は誰にでもあると思われます。

触診は経験と知識によって精度が高まります。

しかしながら徒手療法の世界ではこの触診は際限なく誇張されているのではないかと感じさせられることが多く見られます。

それは誇大広告を行う1部の人達だけでなく、ほとんど全ての人に置いて言えることです。

 

本題はこれからです。

 

僧帽筋上部線維は触れますか?

しばしばセラピストは僧帽筋の上部線維を触診し、その硬さを評価することがあります。

しかしそれが僧帽筋の硬さを反映しているかは分かりません。

座位で僧帽筋上部線維を上から触診するとします。

僧帽筋部は肩甲骨や鎖骨を支えるために一定の張力を持っていて、それが他の組織より硬く感じるのは推して測るべしです。

ですが座位で触診した僧帽筋の硬さは、本当に僧帽筋の硬さですか?

座位で張力がかかっているのは僧帽筋だけではありません。

もっと表層の皮膚とその下の軟部組織、脂肪層なども当然張力がかかります。

我々が硬いと感じている感覚は僧帽筋の硬さではないかもしれません。

座位が分かりやすいですが、座位でなくても同じです。姿勢が変わり、体に対する重力方向が変わることで張力が変わります。

昨今テンセグリティの概念が注目されていますが、テンセグリティに基づいても筋以外の軟部組織が常に多くの因子によって変化しているはずです。

検体の筋を直接触ったことはありますか?

もちろん検体は生体とはまた違うものですが、あの筋の触れた感覚は生体の皮下脂肪や皮膚などを介した普段の触診感覚と大きく異なることを考慮に入れても良いはずです。

部位は変わりますが、膝蓋下脂肪体部は膝蓋下脂肪体炎を経験している人ではかなりの硬さになります。

脂肪の20%は水分ですが、水分の含有量の違いでも高度は変化するかもしれません。

僧帽筋上の皮下脂肪が同じような負荷を受けるわけではないですが、脂肪組織の硬度が変化することはあり得る話です。

また結合組織の厚みの差はどうでしょうか?

組織の粘性の差はどうでしょうか?

それなのに我々セラピストは触診した筋部を硬く感じると「○○筋が硬い」と認識してしまいます。

筋の触診による硬さの評価は見直されるべきです。

触診で患者の症状をどこまで把握できるのか?

触診の訓練をしたドクターが、被験者の頚部と腰部を触診し、右と左どちらに症状があるか当てられるか試した研究があります。

91名の片側性腰痛患者と94名の片側性頚部痛を対象にどれだけの確率でどちらの症状が当てるといったものです。

結果は腰痛が64.8%、、頚部痛が58.5%でした。

因みに2名の試験者の成績に有意差はありませんでした。

この研究では触診のみを用いて検査しています。

右か左の2択で60%前後の低さは触診の精度の低さを疑うには十分です。

Maigne JY, Cornelis P, Chatellier G. Lower back pain and neck pain: is it possible to identify the painful side by palpation only?. Ann Phys Rehabil Med. 2012;55(2):103–111. doi:10.1016/j.rehab.2012.01.001

さらにこれを支持するような研究もあります。

患者の主観であるこわばり感(feeling stiffness)と組織を上から押した時の剛性(stiffness)は慢性腰痛において相関していません。

Stanton, Tasha & Moseley, Lorimer & Wong, Arnold & Kawchuk, Greg. (2017). Feeling stiffness in the back: A protective perceptual inference in chronic back pain. Scientific Reports. 7. 10.1038/s41598-017-09429-1.

つまり触診で検出する硬さはそこまで当てにならないといえます。

触診+圧痛の組み合わせは特に急性疼痛では重要な役割を持ちます。

例えば、いわゆる突き指では、触診+圧痛によって、見逃すべきでない、背側腱膜損傷をみつけることができます。

膝における半月板損傷は関節裂隙の圧痛で検出できます。

それでもACL損傷の既往がある場合は精度が下がるため、限定的です。

この既往の差による圧痛の精度の差は重要です。

半月板損傷における圧痛の精度は研究によって明らかですが、他の部位は分かりません。

急性腰痛になった人の圧痛が、過去の既往によって変化するものだとしたら触診+圧痛の精度は信頼できません。

これが慢性疼痛だったらどうでしょう?

慢性疼痛に対する触診+圧痛は信頼たるものでしょうか?

例えば、私は慢性痛をどこにも持っていませんが、肩や腰を押されると容易に痛みを感じます。

これは異常ですか?

これは臨床においてなんらかの意味を持つでしょうか?

圧迫に対して痛いといったら「それは良くないですね」と言われたこともあります。

慢性腰痛患者における圧痛と慢性疼痛なしの圧痛は何がちがうのでしょうか。

何を正常とみなし、何を異常としますか?

話を深層組織に移します。

先程僧帽筋ですら、まともに評価するのは難しいという話をしました。

今度はより深部の組織です。

先日Twitterでこんなツイートをリツイートしました。

腸腰筋(正確には大腰筋)をリリースできますか?

というものです。

動画では皮膚から大腰筋に至るまでどれだけの壁を乗り越えなければいけないかが解説されています。

さて、最初に我々は知識によって触診できる組織が増えるといいましたが、反対の現象も当然起きます。

それは触診中知らない組織を知っている組織に置き換えて考えてしまうこと、あるいは知らない組織は無視してしまうことです。

大腰筋の腹部からの触診では間の組織が無視されすぎます。

例えば大腰筋の触診について考えるときかなり強固な組織である腸間膜根について考慮することはありますか?

s状結腸はありますか?回盲弁はみつかりますか?

しばしば大腰筋の触診では股関節屈曲で組織が動くのが感じられるから、この組織は大腰筋という主張がされますが、大腰筋に関わるこの様な構造が追従して動くことは無視して考えられています。

大腰筋と、大腰筋に追従して動く組織は見分けられますか?

大腰筋の触診では小腸などの構造を介して圧が伝わると主張されることがありますが、大腰筋に触れる時小腸は完全に潰れているでしょうか?

空腹時で小腸は膨張していませんが、その中に空洞は存在します。潰れていないのであれば、圧が伝わるとは考えにくいはずです。

ゴムホースをイメージして下さい。上から圧をかけるとホースは潰れながら、圧は側方に分散されます。多少は下方に伝わりますが、圧は分散されます。

小腸はそれがいくつか積み重なった構造で、圧はどんどん分散されます。

さらに小腸は柔らかい構造です。

ゴムホースよりも圧を伝える能力が高いと考えるのは無理があります。

このように深層部の触診は中間の構造を無視されやすくなります。

僧帽筋で述べたようにその筋の評価をするのはさらに難しいことです。

我々はみようと思ったものを触知錯覚してしまいます。

触診の精度はより見直される必要があります。