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2019年痛みの定義が変わります。新しい痛みの定義の案が発表されました(IASP:国際疼痛学会)【和訳・解説】


痛みの定義が変わろうとしています。

国際疼痛学会(IASP:International Associateion for the Study of Pain)の従来の痛みの定義は

An unpleasant sensory and emotional experience associated with actual or potential tissue damage,or described in terms of such damage.

日本語では

実際の、または潜在的な組織損傷に関連する、またはそのような損傷の観点から記述される不快な感覚的および感情的経験。

といった定義でした。これは以前にブログで紹介しました。

実はこの定義は以前から問題視されていて、201987日にIASPが新しい痛みの定義の案を発表しました。

注意点としてこの案はまだ決定ではなく、ここからさらに世界中から意見をもらい吟味していきます。

新たな痛みの定義

この発表はIASP’s Proposed New Definition of Pain Released for Commentという記事に掲載されました。

新たな痛みの定義の案は

An aversive sensory and emotional experience typically caused by,or resembling that caused by,actual or potential tissue injury.

です。

日本語にするのなら、

実際の、または潜在的な組織の損傷に起因する、または起因するものと類似した嫌悪性の感覚的および感情的経験。

と言ったところでしょうか。

(訳がかなり難しいです)

前回の痛みの定義と同じ点は青文字のところです。

【従来の定義】

実際の、または潜在的な組織損傷に関連する、またはそのような損傷の観点から記述される不快な感覚的および感情的経験

(An unpleasant sensory and emotional experience associated with actual or potential tissue damage,or described in terms of such damage.)

⬇︎

【新しい定義案】

実際の、または潜在的な組織の損傷に起因する、または起因するものと類似した嫌悪性の感覚的および感情的経験

(An aversive sensory and emotional experience typically caused by,or resembling that caused by,actual or potential tissue injury.)

そして変更されたのが赤字の部分です。

【従来の定義】

実際の、または潜在的な組織損傷に関連する、またはそのような損傷の観点から記述される不快な感覚的および感情的経験。

(An unpleasant sensory and emotional experience associated with actual or potential tissue damage,or described in terms of such damage.)

⬇︎

【新しい定義案】

実際の、または潜在的な組織の損傷に起因する、または起因するものと類似した嫌悪性の感覚的および感情的経験。

(An aversive sensory and emotional experience typically caused by,or resembling that caused by,actual or potential tissue injury.)

まず

unpleasant(不快な)→aversive(嫌悪性の)となりました。

これは違いが分かりにくいですが、aversiveは心理学で嫌悪条件付け(aversive conditioning)と使われるように、「負の刺激」に使われます。

さらに、実際/潜在的な組織損傷に

associated(関連する)→typically caused(起因する)と因果関係をより明確な表現にしています。

さらにマイナーチェンジですがtissue damage→tissue injuryに変更されています。日本語では損傷と表現していますが、より身体的な損傷を強調しているのでしょうか?

そして

described(記述された)→resembling(類似する)への変更です。

痛みの定義の注釈

IASPの痛みの定義には注釈がついています。

その注釈も変更がありました。

疼痛は常に主観的な体験であり、生物学的、心理学的、社会的要因によってさまざまな程度の影響を受ける。

(原文:Pain is always a subjective experience that is influenced to varying degrees by biological,psychological,and social factors.)

痛みと痛覚は異なる現象であり、痛みの経験を感覚経路の活動に還元することはできない。

(原文:Pain and nociception are different phenomena: the experience of pain cannot be reduced to activity in sensory pathways.)

人生経験を通して、個人は痛みの概念とその応用を学ぶ。

(原文:Through their life experiences,individuals learn the concept of pain and its applications.)

痛みとしての経験についての個人の報告は、そのように受け入れられ尊重されるべきである。

(原文:A persons report of an experience as pain should be accepted as such and respected.)

疼痛は通常適応的な役割を果たすが、機能および社会的・心理的幸福に悪影響を及ぼすことがある。

(原文:Although pain usually serves an adaptive role,it may have adverse effects on function and social and psychological well-being.)

言葉による表現は疼痛を表現するいくつかの行動の1つにすぎない。意思疎通ができないからといって、人間や人間以外の動物が苦痛を経験する可能性が否定されるわけではない。

(原文:Verbal description is only one of several behaviors to express pain;inability to communicate does not negate the possibility that a human or a non-human animal experiences pain.)

この注釈はBPS modelに基づいているのが明らかに分かりますね。

痛みはbiological factor(生物学的因子)、psychological factor(心理学的因子)、social factor(社会因子)の影響を受けています。

Pain and nociception are different(痛みと痛覚は違う)もかなり重要なことです。これは病い(やまい)と病気は違うと似たようなものです。まだまだ臨床において痛み(pain)=損傷(tissue injury)と認識している人が多い現状があります。

また注釈では人生経験(life experiences)に触れているようにその人の文脈(context)を重視しています。

BPS model3元論的ですが、文脈(context)を注釈に入れることで3元論的でない捉え方も現しているように感じます。

やはり痛みはその人の今の状態だけでなく、時間や環境、そしてBPS(bio-psycho- social)といったような文脈が重要(contexts matter)です。

新しい痛みの定義の問題となりそうな点

痛みの定義は現代科学に基づいています。

この定義の説明は注釈を読むことで始めて理解できます。

恐らく痛みの定義だけを読んでも痛みに関するBPSの要素、contextsの要素は無視されるかも知れません。

損傷=痛みと捉えられるかも知れません。それは避けたいところです。

そして認知(Cognitive)について一度も触れられていないのも気になります。