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高齢者の腰痛のリスクマネジメント


高齢者の腰痛を見る時は、高齢でない成人をみるときとはまた異なったリスクファクターを持つため、高齢者に特化したリスクマネジメントが必要になります。

ここで記載するないようは、臨床に出る前に知っておかなければならない知識です。
中には発見が遅れることで亡くなるケースがある疾患もあります。
発見が遅れることで症状が進行し、強い障害が出現するものもあります。
ドクターでない場合、本来重篤な疾患に関連した腰痛に出会う機会は多くはないですが、可能性としては否めません。

当ブログでは患者の症状を改善できることよりもたった数パーセントの疾患に対するリスク管理できる施術者がより良いと考えています。

非特異性腰痛

まず前提として高齢者の腰痛の大部分は非特異的です。基本的に腰痛の原因をみつけることは難しい為、特に高齢者の持続性腰痛に対するいわゆる根本治療と呼ばれるものは、たいてい誤りである可能性があります。

椎間板変性は高齢者でより一般的ではありますが、若年層にくらべて椎間板由来の腰痛は少なくなります。
高齢者の慢性腰痛の身体所見は83.6%が仙腸関節痛、95.5%が筋筋膜性疼痛の所見、つまり、仙腸関節痛は臥位で緩解し、局所圧痛があり、大腿後面に痛みが伴うことがあり、筋筋膜性疼痛は筋部の限局した圧痛点と、関連痛、そして他動的なストレッチに抵抗がみられます。
しかしこれらを腰痛の原因とすることは、歴史的な治療成績からはみれば不可能です。

神経障害

変性した脊髄構造(椎間板ヘルニア、椎間関節、硬膜外脂肪など)による神経根や脊髄の圧迫は、膝より遠位に放散する神経障害を引き起こすことがあります。

原則的に神経根障害の臨床症状は神経組織圧迫の部位に依存しますが、一致しないケースもあります。
腰部脊柱管狭窄症は腰痛を伴うか、または伴わない一側性または両側性神経障害と神経原性跛行をもたらすことが多いです。
神経原性跛行は長時間歩行後の脚のしびれと重圧感を特徴として、屈曲位で軽減できます。これの応用として自転車に乗ると症状が軽減されるとバイシクルテスト(自転車テスト)となり、脊柱管狭窄症を疑う必要があります。
椎骨孔における骨棘や狭窄は腰痛なしで根痛を生じることがあります。
患者からしてみれば、下肢症状の痛み、しびれ、つっぱり、疲れを混同して「しびれ/痛み」と表現することがあるため、整形外科学的検査で適切な鑑別が必要となり、少しでも疑いがあれば、運に任せずにRed flagsとして病院の受診を勧めなければなりません。

骨粗鬆症による骨折

特に女性は閉経後のホルモン変化により、骨粗鬆症性骨折とそれに関連する腰痛に罹患しやすいです。
閉経後女性の約25%が脊椎圧迫骨折に罹患していることを考えると、ドクターの元に受診していない高齢女性のいくらかは圧迫骨折を放置している可能性は十分あります。
80歳以上の女性における脊椎圧迫骨折の有病率は40%にも及ぶと推定されています。果たして接骨院や整体で見逃しがどれくらいあるのかは深く考慮すべき事項です。

非特異的腰痛の患者と比較すると脊椎骨折の患者はより大きな障害を経験しますが、残念ながら、高齢者の多くは加齢過程の一部として骨や関節の痛みを呈するため正確に診断されているのは症例の1/3のみです。
見逃しを減らす為にも傍脊柱筋痙攣を示す/示さない限局性腰痛のある急性腰痛は注意が必要です。
高齢、コルチコステロイド使用、重大な外傷は脊椎骨折の危険因子であることが示唆されています。圧迫骨折の好発部位は胸腰椎領域です。
最も一般的な骨折機序は前楔状圧迫骨折を引き起こす屈曲運動/外傷です。
因みに圧迫骨折は後方の椎体は無傷のままが多いですが、一般的ではない骨粗鬆症性脊椎骨折では、椎体全体または椎骨の後方部分が軸方向に圧迫されるため脊柱管が狭窄し神経障害を来します。

変形性脊柱側弯症(De novo degenerative lumbar scoliosis)

De novo degenerative lumbar scoliosis(DNDLS)は高齢者の脊椎変形です。
DNDLSは、若年性特発性側弯症の既往のない人において50歳以降に発症します。
冠状面におけるコブ角が10°以上の腰椎側弯曲と定義されています。

成人のDNDLSの有病率は8.3~13.3%ですが60歳以上では68%です。
しかしながら高齢者におけるコブ角と腰痛は有意な関連しません。
注意すべきこととして、DNDLSの進行率は青年期の特発性側弯症よりも高いです。

 

悪性腫瘍

悪性腫瘍は臨床にでていればほとんど確実に接触する機会があると思われます。
そのためプライマリケア医に提示される腰痛のうち脊椎腫瘍に起因するものはわずか1%未満ではあっても頭の中に入れておく必要があります。特に予後にかかわる重大なものであるため注意が必要です。
腰痛に関連する腫瘍の大部分は転移に関連しており、原発腫瘍はほんの一握りです。
腰痛のの一般的な転移源は前立腺および腎臓ですが、原発性悪性腫瘍は高齢者にもみられます。
若年層とは異なり、高齢者は原発性良性腫瘍を有する可能性は低く、臨床的に脊椎腫瘍の典型的な症状は、進行性、持続性、限局性、または放散痛で、これらは運動により悪化し、夜間に悪化し、安静では緩和できません。
さらに、脱力感やしこりを感じることもあります。

 

化膿性脊椎炎(VO)

化膿性脊椎炎は死に至る疾患です。
発症率は10万人あたり2.5~7人です。しかしながら、死亡率は12%あります。
私はみたことがありませんが、まわりの症例報告では聞いたことがあるため、接する可能性はあります。
臨床的には発熱、C反応性蛋白の上昇、傍脊柱筋痙攣、腰痛、神経障害、硬膜外膿瘍を呈することがあります。
さらに結核性VOの場合は腰筋膿瘍で鼠径部腫瘤を有することがあります。

 

内臓疾患

高齢者では特に内臓疾患が慢性腰痛を起こしている可能性があります。

解離性腹部大動脈瘤、胆嚢結石症、腎結石症、前立腺炎、尿路感染症、骨盤内炎症性疾患)は慢性腰痛を起こします。

 

馬尾症候群

馬尾症候群は腸管、膀胱、性機能不全、肛門周囲のしびれをもたらします。

馬尾症候群患者は坐骨神経痛を経験することも経験しないこともあります。

 

参考文献

Wong AY, Karppinen J, Samartzis D. Low back pain in older adults: risk factors, management options and future directions. Scoliosis Spinal Disord. 2017;12:14. Published 2017 Apr 18. doi:10.1186/s13013-017-0121-3