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筋肉痛の新たな説【2020年モデル】


遅発性筋痛(DOMS:Delayed onset muscle soreness)は一般的には”筋肉痛”と呼ばれ、誰もが経験する様な痛みです。

遅発性筋痛の定義は「遅発性の痛みで、筋の stiffnessがあり、腫れがあり、筋力が低下し、ROMが減少するもの」です。

この遅発性の痛みは運動後8時間は感じず、ピークは1-2日後で、7日以内に消失します。

名前からも分かる様に遅発性筋痛は筋の痛み(muscle soreness)という仮説が従来建てられていました。

従来は筋が微細損傷することで生じるとされていました。

しかし残念ながら遅発性筋痛のメカニズムは未だ解明されていません。

そんな中2020年3月に遅発性筋痛の新たな説が発表されました。

一言でその説を説明するのであれば、遅発性筋痛は

「筋の微細損傷ではなく神経の微細損傷である」

というものです。しかしこれでは遅発性”筋”痛という名前自体おかしな気もしてきます。

ここでは新たに発表された遅発性筋痛のメカニズムを紹介します。

 

さて、今回紹介する論文はこちらです。

 

Sonkodi B, Berkes I, Koltai E. Have We Looked in the Wrong Direction for More Than 100 Years? Delayed Onset Muscle Soreness Is, in Fact, Neural Microdamage Rather Than Muscle Damage. Antioxidants (Basel). 2020;9(3):E212. Published 2020 Mar 5. doi:10.3390/antiox9030212

タイトルを和訳すると

“私たちは100年以上も間違った方向を見てきたのでしょうか?遅発性筋肉痛は筋肉損傷よりむしろ神経微小損傷である”

となります。

このタイトルに惹かれ、ほかの論文を読んでいたのを中断し、すぐこの論文を読み始めました。

筋肉痛の新たな説は?

そもそも遅発性筋痛において筋線維の損傷と炎症がDOMSに必須ではなく、他のメカニズムが存在しなければならないことは報告されていました。

そこで建てられた説が「DOMSは、筋紡錘の神経終末の急性圧迫性軸索障害である可能性がある」というものでした。

 

遅発性筋痛が起こりやすいのはエキセントリック(遠心性)収縮です。

なぜエキセントリック収縮で軸索が圧迫されるのか想像つきますか?

実はこれはストレッチを長時間行うと血流障害が起こるメカニズムに似ています。

エキセントリック収縮は筋が伸ばされながら収縮する様式です。筋が伸ばされるということは、当然中にある筋紡錘も伸長されます。

筋紡錘が伸ばされると、筋紡錘の断面積が小さくなり、紡錘内の圧力が上がっていきます。この圧力が紡錘内の神経終末を圧迫し損傷に役立っています。

しかしこれだけでは損傷に至るには弱いのです。

そこで関わってくるのが交感神経系(SNS:sympathetic nervous system)です。

遅発性筋痛は通常、普段してないような運動か激しい運動の後に生じます。

安静時や中等度の運動時には、主に副交感神経制御が存在しますが、運動が高強度になると、交感神経制御へシフトします。

筋の血流は、活動中の筋肉への交感神経の放電の同時増加にもかかわらず、活動の強度に比例して増加します。

血流の増加と筋収縮が、コンパートメントの圧縮の増加を誘発する可能性もあります。

しかし、そうはいっても高強度の運動だけの圧迫力では、筋紡錘に到達するのに十分な損傷力ではありません。

さらなる負荷の為には認知がかかわります

通常激しい運動をすれば筋疲労を起こします。筋疲労は十分な収縮力を生み出せない要因になることが予想されますが、以前の慣れていた運動パフォーマンスレベルに認知的に維持されることで限界を超えるような筋の運動を達成できます。

結果として神経終末が微細損傷するわけです。

 

問題はこの主張にどれだけの妥当性があるか?です。

元の論文をみてみると、その根拠となるのはカエルの筋紡錘を伸張することで筋紡錘内の神経終末が変性したとの報告です。

これでは弱いような気もします。

それでもこの認知を元にした遅発性筋痛のメカニズムから説明できる、久しぶりに運動することで発症しやすい理由は納得できます。

そして遅発性筋痛を引き起こした後、神経含む組織が運動に適応し、組織が自身の認知内の運動負荷に耐えられるようになることで、遅発性筋痛を引き起こしにくくなっていくと考えると、運動を繰り返すことで遅発性筋痛を引き起こさなくなっていくことに納得できます。

組織の耐性が認知に近づくことで筋肉痛が起こりにくくなるとすれば段階的な運動負荷の増加が遅発性筋痛を抑制できる事は想像できます。

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